萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「観世会定期能 1月」を観る

1月3日、観世能楽堂へ。

「翁 父尉延命冠者之式(ちちのじょうえんめいかじゃのしき)」

翁は観世宗家、
三番叟は太一郎くん、
千歳は三郎太くん、
面箱は飯田くん、
狂言後見は深田さん&中村くん。

笛は松田弘之さん、
小鼓頭取は大倉源次郎さん、
脇鼓は鵜澤洋太郎さん&大倉伶士郎くん、
大鼓は柿原弘和さん。

今回は、千歳も面をつけました。
紐を結ぶのは坂口貴信さん。

邯鄲男が笑ったらこうなるのかも、というような顔つきの面。
これが「延命冠者」の面、ということでしょうか。

観世宗家は、父尉の面を。
こちらの紐も、坂口貴信さんが結わえられました。

翁の舞がおわると、翁と千歳が二人で並んで、面を外されました。

太一郎くんは、ろくしょう色の直垂。
明るく、華やぎのある三番叟。

鬱々したニュースが毎日流れてきますが、新しく年が開けたのだなー、と漸く感じることができました。

ところで今回は、面箱の中に、
父尉、延命冠者、黒色尉の3つの面が入っていたということですね。

実は、翁が座についた後、飯田くんが面箱を翁の前へ持っていって面さばきをする時間が、やたらと長かったのです。
面の数量が多かったことと、関係あるのでしょうかねー

なお、2年前に観た金春流では、延命冠者の面は、狂言方が付けていました。
金春流では、千歳を狂言方が務めるので、そのようなことになるのですね。

その時は、シテは、まず白色尉を、続いて父尉を着けておられました。
今回の公演より小書が一杯ついていたので、そのためなのか、もしくは流派による違いなのか、興味がそそられます。

その金春の公演を拝見したときのblogは、こちら。
https://jizo.hatenablog.jp/entry/2019/01/12/021150


さて、今年の話に戻ります。

「末広かり」
果報者が萬斎さん、
太郎冠者が裕基くん、
すっぱが石田幸雄さん、
後見が内藤くん。紋付裃です。

果報者サマは、淡い色調の紅白段熨斗目、紺と洗朱の松皮菱きりかえの素襖裃。
紺地には松竹梅、洗朱地には折鶴&亀。

素襖裃のフォルムが、格調たかく美しい。

裕基くんは、白地に小豆色の格子の縞熨斗目、コウモリ(?)の腰帯、常磐色の狂言袴。
肩衣は、茶褐色地に梅の枝が染め抜かれ、青磁色の霞がたなびいています。

今回の配役の「末広かり」、はじめて拝見しましたが、とーっても良い!

裕基くんの安定感に、目を見張りました。
アドの太郎冠者のなかでは、この太郎冠者はトクベツ大変そうですが、何度も演じてこられたかのように軽々とこなされる。

「居るけど居ない」ポジションにおられる間も、萬斎さんは実に穏やかなお顔。

お使いから帰って、間違ったウンチクを得々と披露する裕基くんと、呆れ、いらつく果報者サマとのやり取りが絶妙です!

そして、ラストのキメが、柔らかくなりすぎす、祝賀性のなかにも硬質な美しさがあるのです。
なんと見目麗しい親子なのでしょうか!!


仕舞
高砂」  梅若猶義さん。
「羽衣 クセ」 梅若万三郎さん
「合浦」  観世喜正さん

独吟「老松」 梅若実さん
鬘桶に座っておつとめなさいましたが、お声は健在でした。


「吉野天人 天人揃」
シテ(里女&天人)が観世芳伸さん、
ツレ(天人)が坂井音晴さん&武田文志さん&北浪貴裕さん&武田祥照 さん&藤波重彦さん。

ワキ(都人)は福王和幸さん、
ワキツレは、村瀬堤さん&村瀬慧さん。

アイ(里人)が高野さん。

笛が杉信太朗さん、
小鼓が幸正昭さん、
大鼓が亀井実さん、
太鼓が大川典良さん。

後シテの面キレイ。
後場では、4人のツレを含め、5人の天人がズラリと並びます。

後シテは白い舞衣の壺折で、鳳凰の天冠。
ツレは藤紫地に金糸の長絹で、月輪(?)の天冠。

ツレもモチロン綺麗なんだけど、後シテは、やはり主役オーラがあり、飛び抜けて気高かったです。

新作能「白雪姫」のブルーレイを観る

12月のアタマにブルーレイを観ました。
その翌日から仕事が噴火して、更に年末の諸々もあり、この話題を書きそびれているうちに大晦日を迎えてしまいました。

ということで、観てから日数が経ってしまいましたが、面白かったです!

観る前は、失礼ながら、学芸会チックかなものかと予測してたんだけど、驚くほどの完成度!!

女王&魔女が野村太一郎くん。
特典映像の中での説明によると、
太一郎くんのお役が、シテの位置付けになるのだそうです。

白雪姫が坂口貴信さん、
王子が観世三郎太くん、
鏡の精が大槻裕一くん、
太郎冠者が野村裕基くん。

7人の小人が、深田さん&高野さん&月崎さん&岡さん&中村くん&内藤くん&淡朗くん。

囃子方は、広忠さん&鵜澤洋太郎さん&竹市学さん&林雄一郎さん。

構成は、今は亡き太一郎くんパパ(五世野村万之丞)。
演出は太一郎くん。

監修は萬斎さん。
萬斎さんは、後見のお役も!

海外のお話なのに、ふしぎなくらい、能楽の様式性にフィットしてました。

あまりの馴染っぷりに、
一緒に観ていた母は、「白雪姫って、日本の民話なんだっけ?」と言い出す始末。

小人たち、気に入りました。
小人たちの装束は、全員、異なるフォルムの頭巾。
かぶる向きを90度、あるいは180度かえたり、一部を紐で結んでアレンジして、誰ともフォルムがカブらないようにしてあるんです。

いずれの頭巾も、狂言の装束として既存の物を流用しつつ、7つものパターンを創出していて、作り手のコダワリが感じられます。

高野さん小人がイチバン可愛い。
特にラストは、高野さんが、全部かっさらって行きました~

・・・と思ったら、ラストのラストに、カメラは方向を転じて後見座へ。

わーっ
大正解です!
視聴者の気持ちを熟知したカメラワーク!!

自分がライブで観ていたとしても、まさに同じタイミングで、後見座へ視線を向けたと思います。

メイキング映像には、前日のリハーサルに立ち会われた観世宗家のお姿も!
坂口さんにアドバイスなさったりして、熱心なのです。

裕基くんへのインタビューもあり、とあるシーンは裕基くんと裕一くんが相談しながら作り上げた、と知りました。

四苦八苦されつつも、充実した時間を、出演者の皆さまと共有してこられたことが伺われます。

この「白雪姫」、ライブでもぜひ観てみたいです。
2021年に叶いますように。

「第四十回テアトル・ノウ東京公演 天下泰平 国土安穏 ーコロナ終息祈願ー」を観る

12月27日、国立能楽堂へ。

素謡「神歌」
翁が片山九郎右衛門さん、
千歳が観世淳夫さん。

翁は、年明けのマスト曲という印象がありましたが、1年の締めくくりにも、ふさわしい曲でした。

地球規模で大変なことが起こった今年、という年に聴くと、
この曲がつくられた遥か昔にも、きっと大きな困難があって、
そんな時に必然から、この曲が生まれたのかも、という気持ちになります。


能「羽衣 和合之舞」
天女が味方玄さん、
漁師・白漁が宝生欣哉さん、
同行の漁師が大日方寛さん御厨誠吾さん。

大鼓が亀井忠雄さん、
小鼓が成田達志さん、
笛が杉信太朗さん、
太鼓が前川光範さん。

地謡は、九郎右衛門さんを地頭に、6人編成。

欣哉さんは、藍色&白&胡桃色の段熨斗目、枯葉色の水衣、白大口。

この段熨斗目が、めちゃくちゃオシャレ。
白のエリアに、観世水チックな絣の模様が、スーッ スーッと配されているのです。

水衣を肩上げにしてらしたので、段熨斗目の柄がシッカリ見えたのでした。


狂言「樋の酒」

太郎冠者が萬斎さん、
次郎冠者が高野さん、
主が石田幸雄さん、
後見が多一郎くん。

太郎冠者さまは、白地に緑&辛子色の格子の縞熨斗目、紺の襟、瓢箪紋の腰帯、煉瓦色の狂言袴。

高野さんは、この美味しいお酒を
何とかして萬斎さんと分かち合いたい、と切実に思ったすえに、樋を利用しよう、と着想します。

この曲って、
次郎冠者の行動力が太郎冠者を上回っている、というレアケースなのですね。

「棒縛」や「附子」や「文荷」は、太郎冠者が率先して色々やらかしていますが。

高野さんのお陰で、ようやくお酒にありついた萬斎さんが実に嬉しそうで、私もマスクの下でニマニマです。

お酒を呑む音も、タッと舌を鳴らす音も、なんて美味しそう。

酒宴で謡う低いお声が美しく、酒蔵の音響効果なのねー
と思ってしまう。
酒蔵は単なる設定のはずなのに。

こんなに年の暮れが押し迫った時期に、萬斎さんの狂言を観れた幸福に感謝です。


浅見真州さんによる仕舞「邯鄲」。  
観世喜正さんによる仕舞「鍾馗 キリ」。


半能「石橋 大獅子」
白獅子が味方玄さん、
赤獅子が味方團さん、
子獅子が武田祥照さん&小早川泰輝さん。

寂昭法師が宝生欣哉さん。

大鼓が広忠さん、他の囃子方3名は、先程と同メンバ。

地謡は、観世喜正さんを地頭に、こちらも6人編成。

超アグレッシブな石橋でした!
獅子のお役を、あれくらいの年齢層の方々で固めると、もーれつな破壊力のある舞台になるのですね。

本舞台の獅子も観たいが、
橋懸りの獅子も観たいし、
広忠さんも観たい~
もっと視聴覚が欲しいぃ、という贅沢なジレンマ。

キッと仰向く獅子たちのシンクロが、特にカッコよかったです。

「青山能 MIRAI」を観る

12月19日、銕仙会能楽研修所へ。

仕舞「玄象」
安藤継之助くん。
4歳。
地謡は、安藤貴康さんを地頭に、谷本健吾さん&観世淳夫さん。

継之助くんは、手をピシッと膝に揃えて静止したときのお顔が、眉間にシワを寄せ、真剣そのもの。

「渾身の静止を繰り出したよ!」といんわばかり。
か・わ・い・い~

きっと、おとうさまから、次の動作に移る前に膝に手を繋ぐ揃えるのことを、
大切なポイントとして、言い含められていたのでしょうね。


仕舞「田村 キリ」
谷本悠太朗くん。
中学1年生。

地謡は先程と同メンバですが、今度は谷本健吾さんが地頭を。


舞囃子「枕慈童」
馬野訓聡くん。
中学3年生。

笛は八反田智子さん、
小鼓は飯冨孔明さん、
大鼓は柿原孝則さん、
太鼓は澤田晃良さん。
地謡は、馬野正基さんを地頭に、長山桂三センセ&観世淳夫さん&青木健一さん。


舞囃子「春日龍神
長山凜三くん。
中学3年生。

囃子方は、枕慈童メンバと同じ。

凜三くんを拝見するのは、4ヶ月ぶり。
またまた背が高くなられ、ぐんと大人びられたような。

美麗すぎるお顔立ちは、ヒトならぬお役をなさるには邪魔になってしまいそうな気がしますが、
いえいえ、神に変容されていました。

周りの空間まで清浄になって、ウユニ塩湖のような荘厳さが拡がっておりました!!

銕仙会のサイトで、この時のお写真が観れますよー
全国民に観ていただきたい、美し~いお写真です。


仕舞「笠之段」
観世淳夫さん。
地謡は、西村高夫さん&清水寛二さん&柴田稔さん。


能「経正」

経正が谷本康介くん。
小学4年生。

僧都行慶が、宝生尚哉くん。
高校2年生。
欣哉さんのご次男。

笛は一噌隆晴くん。小学6年生
隆之さんのご長男。

小鼓は、大倉伶士郎くん。中学2年生。
おとうさまの源次郎さんが小鼓後見。

大鼓は、大倉慶乃助さん。

地謡は、観世銕之丞さんを地頭に、清水寛二さん&柴田稔さん&鵜澤光ちゃん&馬野正基さん&安藤貴康さん。

圧巻でした!
この子方ちゃんはスゴい、と前から思っておりましたが、今回は決定打でした。

単に覚えたセリフを発するんじゃなくて、経正になってたもの。
小学4年生にして、平家の公達の無念さを理解しちゃってるのぉ?

末恐ろしい~
ていうか、今後が楽しみ~

「第92回 野村狂言座」を観る

12月18日、宝生能楽堂へ。

最初の解説は、石田幸雄さん。

狂言「膏薬煉」
上方の膏薬煉が裕基くん、
鎌倉の膏薬煉が淡朗くん、
後見が飯田くん。

色違いのオソロの装束すてき。
鼻に貼り付けた長い短冊が、ニュータイプのマスクのようです。

身体を反らせたり、ねじったりのタイミングが両者バッチリで、膏薬の効き目がそこまであるんかいっ
と思いつつも、シンクロがミゴトなので、ヨーシその設定、受け容れちゃおう!という気にさせられます。

狂言「千鳥」
太郎冠者が野村又三郎さん、
主が野村信朗さん、
酒屋が野口隆行さん。

一家に一人欲しくなるような太郎冠者。
エネルギッシュで、頭の回転も早くて、愛嬌もある。
ちょっと生意気な口をきくとこも、ひっくるめて、酒屋は気に入っているのでしょうね。

太一郎くんによる小舞「鶉舞」。
地謡は、深田さん&高野さん&内藤くん&淡朗くん&裕基くん。

「歩いてるだけでカッコいい!」←これ、入場してきた裕基くんについての、母の感想です。

はい、私も全く同感でございます。

さっきも、上方の膏薬煉としてのお姿は目にしたんだけど、
こうして、裕基くんご当人として登場されると、カッコよさがパワーアップするのですよねー

太一郎くんの陽性オーラ全開でした。

コロナのニュースばかり流れてくるこのご時世、陽性というワードのイメージダウンが著しいですが、ここでは誉め言葉です。

狂言が発祥した頃に生きていた人たちは、こんな風に軽やかに歌舞を楽しんでたんだなー、と感じられました。

萬斎さんによる小舞「鉄輪」
地謡は、「鶉舞」と同メンバ。

萬斎さんは錆納戸色の袴。
扇は神秘域でしょうか。

萬斎さんてば、情念ドロドロ系が、なんとお似合いなるのでしょうか。

背後には、得体の知れない何かが蛇のように渦巻いているかのよう。
振り乱したご自身の長い髪(ほんとは長くないはずだけど)なのか、
それとも、ゴッホの「星月夜」を赤錆色に変換したを闇空なのか。

地謡も、めちゃくちゃ素敵でした。

狂言「仏師」
すっぱが中村くん、
田舎者が石田幸雄さん、
後見が内藤くん。

仏像のポーズが気に入らなければ何度でも直してやろう、だなんて、アフターサービスの行き届いたすっぱです。

すっぱは、すっぱなりに、誠意があるのですね。
石田さん、もうその辺で手を打ってあげてよぉ、と思えてくる。

中村くんのお人柄によるのでしょうか。

狂言「蜘盗人」
貧者が万作さん、
主が萬斎さん、
太郎冠者が月崎さん、
立衆が高野さん&竹山さん&深田さん&飯田くん&岡さん、
後見が淡朗くん&裕基くん。

万作さんが退出する時の言葉が、心に残りました。
「あまりの恥ずかしさに、はじめ入ったところから、おかえしなされて下さいませ」と。

この人物の品性が感じられます。
貧富と品性は関係ないのですねー

今回、古歌を万作さんが詠む場面で、万作さんがふと、セリフに詰まられたご様子に。
プロンプタの声が何度か掛かりますが、万作さんのお耳に届かぬようで。

演者のどなかかも、プロンプタに加わられて、何度目かに漸く、万作さんに伝わったのでした。

その時、裕基くんのお姿は舞台上には無かったのだけど、プロンプタをなさるお声は、キリリと通りました。

私はかなり後ろの方のお席だったので、私がヒアリングできちゃうのはヨロシクないのかもしれないけど、
きっと、最初のうちはもうチョイ小声でトライされていたのでしょうね。

裕基くんにとっては、未演であろう演目の後見だったかと思いますが、よりによって後見の最重要任務発動の事態にぶちあたってしまい、ドキッとなされたことでしょう。

お後見て、ご自分が演じたことのない曲でも、ほんとーにセリフをちゃんと覚えて臨まれるのですね。

「「萬斎インセルリアンタワー 20」を観る

12月16日、セルリアンタワー能楽堂へ。
見所に、杉本博司さんのお姿。

最初に萬斎さんによる解説。
茄子紺の紋付きに袴。

時々、お言葉が出てこなくなってフリーズなさる。
そのご様子がかわゆくて、フリーズなさろうとも、十分に間が持ちます。

賽の目
採用される聟が中村くん、
舅が深田さん、
太郎冠者が月崎さん、
不採用になっちゃう聟が、岡さん&内藤くん、
深田さんの娘が飯田くん、
後見が淡朗くん。

不採用を宣告された内藤くんが、橋懸りを戻っていくと、向こうから、ツツーッと出てきた中村くんに行き遭う。
お互いに身体を斜にしてすれ違う場面が、映画のワンシーンみたいで印象的。

お互いに恋敵だと、ピンときた、って風でした。

狂言「寝音曲」
太郎冠者が萬斎さん、
主が高野さん、
後見が月崎さん。

太郎冠者さまは、
テールグリーン地に三匹の兎の肩衣。ウサギちゃんの目はボルドー色。
白地に小豆色の格子の縞熨斗目、朱色に露芝模様の狂言袴。

クリスマスカラー

鬘桶の蓋は金の露芝模様。
袴とリンクさせてるのねー
なんてお洒落なんでしょ。

この晴れやかなキラキラしさは、どうしたことでしょう。
ハッとするほど艶やかな、太朗冠者さまでした。

さて、五輪開閉会式の演出チーム解散の会見が行われたのは、
この公演の1週間後のことでした。

セルリアンの解説のなかで、コロナで中止となってしまった演劇界の苦渋を出産に例えられ、

「大変な生みの苦しみを経て、ようやく出産という段階になって、それが無になってしまった、というのは、本当にやりきれなかったろうと思います」

といった主旨のことを仰っていたことが、解散ニュースを聞いて、まざまざと蘇ってまいりました。

あれは、演劇界の苦しみに、五輪開閉会式の演出た携わってこられた、ご自身の思いを重ねての、ご発言だったのかもしれませんね。

また、こと公演の通例では、解説のあとに質疑をお受けくださっていましたが、今年は無しで。

コロナ対策なのだろうと思い込んでいたけど、今にして思えば、五輪関連の質問を避ける意図もおありだったのでしょうか。

五輪開閉会式の演出チーム解散の会見は、ノーカット版を夜、会社から帰ってから拝見しました。

萬斎さんは1回目のご発言の後に、目を何度もシバシバ瞬かせてらして、涙をこらえておられるの?と、私はオロオロ。

かれこれ7~8年くらい前でしょうか、
国立能楽堂での「花盗人」で
落涙された時と、まったく同じ「シバシバ」なんだもの。

その時は、シバシバさせて踏ん張った末に、崩壊しちゃったのだけど。

桜の枝を盗みに入って家主(万作さん)に見つかり、桜の木に縄でつながれ、死罪を宣告されるシーンだったと記憶しています。

でも、でも、この会見は、どうか全集中で止血、いえ、止涙なさってくださいーー
と、念じる私。

私の個人的な嗜好からすれば、
あのお方が落涙なさる光景だなんて!ウェルカム!!なんだけど、

ご当人としては、あの会見の場では、どうあっても涙を見せるのは本意ではなかろうと思ったら、念じずにはおられず。。。

放映された画面の範囲では、無事に防御できたようで良かったです。

そして、このような複雑な状況での会見は、質疑応答の1つ1つが、ロシアンルーレットのような怖さを孕んでいる気がしますが、
萬斎さんのご回答は、非の打ち所がありませんでした。

萬斎さんが選ばれるお言葉の的確さには、ひれ伏すばかりです。

口に出さずに胸に秘めおかれた事柄は、そりゃも~山ほどあるでしょうが、
少なくとも口に出された言葉は、真意なのだと感じられました。

ご無念さは、いかばかりかとは思いますが、子午線の祀りにスッパリとお気持ちが向かわれますように、と願っております。

「第九回 佐久間二郎能の会 三曜会」を観る

12月5日、国立能楽堂へ。

最初に、落語立川流 立川談四楼さんによる「おはなしー曽我物語」 

続いて仕舞「小袖曽我」 

十郎祐成(兄)が永島充さん、
五郎時致(弟)が佐久間二郎センセ。

このあとに上演される「夜討曽我」と同じ配役にしたんですね。
・・・と、仕舞を観てる時は、その程度にしか考えていなかったんだけど、

これは佐久間センセが入念に仕組まれたエピローグだったのです(たぶん)。

・・・ということは、帰路についてから、ようやく気付きました。

「小袖曽我」は、曽我兄弟が仇討ちに出発する前までのお話なので、ここから物語は、はや、動き出していたのです。

そのあとの観世喜之さんの仕舞「羽衣」も、
曽我兄弟が仇討ちへ向かってる頃、平行して三保の松原で、こんなことがあったのね、と捉えている自分がいたのです。

さらに、仕舞に続いて上演された
狂言「成上り」も、
時を同じくして、鞍馬では、参詣に来た主従がこんな目に遭ってたのねー、という気持ちに、私はなっいたのです。

太郎冠者が弁慶パパの逸話を語ったりしてるから、時代的にも、なかなか辻褄が合うし。

つまり、「羽衣」や「成上り」という外伝を差し挟みつつ、「夜討曽我」に至る、という構成のように感じられ。

なので、とてつもない壮大な物語を、番組全体を通して味わった気持ちになりました!

さて、その狂言 「成上り」です。     
太郎冠者が萬斎さん、主が裕基くん、すっぱが高野さん、後見が中村くん、幕が内藤くん。

太郎冠者さまは、黄色地にターコイズブルーの格子の縞熨斗目、裾の方が狐色のグラデーション。
蓑虫が配された狐色の肩衣、2本の唐団扇の紋の腰帯、苔色の狂言袴。

萬斎さんの、いろーんな声色が聴けて嬉しい。
すっぱを捕らえた後、太郎冠者がことごとく的外れなことを仕出かすのが、もう楽しいったらなかった!

本来の上下関係と逆転して、裕基くんが萬斎さんに対して、呆れたり怒ったりするのにも、ニマニマしてしまう。

裕基くんの立ち姿が美しい。
観ている人に美を感じさせるのは、とても重要なことだなーと、しみじみ思うこの頃です。

あと、高野さんの重ね扇の腰帯が、すてきでした。


能「夜討曽我 十番斬 大藤内」

五郎時致&が十郎祐成が、先程の「小袖曽我」のお二人。

団三郎が坂真太郎さん、
鬼王が谷本健吾さん。

新田忠常が福王和幸さん。

大藤内が万作さん、
狩場の者が萬斎さん。

十番斬りされるのが、
青木健一さん、
中所宜夫さん、
松山隆之さん、
馬野正基さん、
鵜澤光ちゃん
奥川恒治さん、
桑田貴志さん、
小島英明さん、
北浪貴裕さん、
遠藤和久さん。

古屋五郎が、角当直隆さん。
御所五郎丸が長山耕三さん。

宿直の侍が、中森健之介くん&奥川恒成くん。

笛が松田弘之さん、
小鼓が鵜澤洋太郎さん、
大鼓が広忠さん。

地謡は、観世喜正さんを地頭に5人編成。
フェイスシールド等は無し。

後見は、観世喜之さんを主後見に3人。

「大藤内(おおとうない)」は、狂言方の小書。
六世万蔵さんのご著書によると、替え間の扱いになるそうです。

「橋弁慶」の替え間「弦師」に似ていました。

とぼけたコントのようなアイなんだけど、凄いのは、
仇討ちを果たしたらしい、という情報が、アイでチラッと触れられるだけ、ということ。

あんだけ色々とタメを作っておきながら、肝心の仇討ちシーンは全く見せない、と。

あと、萬斎さんが万作さんをからかうんだけど、冗談の中に隠された意地悪がリアルに怖い。
月見座頭のアドにも通ずるような怖さ。

十番斬り、固唾を飲んで見入りました。
兄弟が、本舞台と橋懸りに分かれて戦うので、うわうわ、どっちも観たいのに~、というジレンマが。

奥川センセとかの重鎮クラスの方々まで斬られ役で出ておられるって、贅沢です。

十番斬の後に登場したが福王和幸さんが、肩上げの法被に厚板、白大口、烏帽子というお姿で、文句なしのカッコ良さ。

法被は、黒地に、えらく大きい金色のイタリア華紋が配されているんだけど、スラリと背が高いので、衣装負けしません。
十郎は福王和幸さんに切り殺されてしまいましたが、斬られ甲斐のある相手だったんじゃないでしょうか。

五郎は、若き宿直の侍コンビに両脇から引っ立てられて、前傾体勢ならぬ後傾体勢のまま引き摺られて!幕入となりました。

国立能楽堂の長い長い橋懸りを、少しの突っ掛かりもなく、それは見事な大滑走でした。
幕の向こうで、五郎も殺されたってことなのでしょうね。

でも、不思議な爽快感がありました。

何としても、この小書をやりたい、という佐久間センセの熱意が満ち満ちていて、
さらに、それに賛同して、よそのお家からも多く方々が斬られに駆けつけた、という風に感じられたからかも。

斬られた皆さまも、実は滅多にない小書を楽しんでらしたのかしらねー