萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「大槻能 リニューアル公演 日賀寿能 第二日目」を観る

1月4日、大槻能楽堂へ。
 
この度、とてつもなく貴重なものを拝見してしまいました!
 
「翁 大黒風流」
翁が大槻文藏さん、三番叟が萬斎さん、千歳が大槻裕一くん、面箱が裕基くん、
大黒が万作さん。
 
笛は竹市学さん、
小鼓頭取は成田達志さん、脇鼓は古田知英さん&成田奏くん、
大鼓は広忠さん。

そして、太鼓が中田弘美さん。
翁の後に脇能とかが続くわけでもないのに、太鼓方がおられる!

いったい何が繰り広げられるのぉ?と、始まる前から、未知なる世界に心が浮き立ちます。
 
萬斎さんは、鈍色の地に、鶴亀・松が染め抜かれた直垂、朱色ベースにグリーン&金糸の格子の厚板。
裕基くんは、若草色の地に鶴亀・梅が配された直垂、同色の襟、白地に朱色&グリーンの格子の厚板。
裕基くんの厚板が、パジャマっぽいカジュアルな柄行で、とっても気に入りました。
 
文藏さんの翁は、面を外されたあとも神様のまま。
橋掛りを去ってゆかれる肩も背も、神様のままでした。
 
そして、私が目パチクリしたのは、「鼠」というお役。
 
公演パンフに折り込まれた、別刷りの「登場人物と使用面装束」という資料を、開演前に眺めていたところ、「鼠」との表記が。
 
いやいや、そんなお役あるわけない、私の老眼が進行して読み誤っているだけだ、と思いましたが、近くのお席の知人に訊いても、鼠だと仰る。
 
で、始まってみると、まさしく鼠だったのですが、
そのメンバは、
月崎さん&高野さん&中村くん&内藤くん&飯田くん。
狂言後見は、深田さん&太一郎くん。
 
その鼠の登場は、揉之段の後のことです。
まず、面箱が黒式尉と問答し、鈴を渡すと、なんと揚幕へ入ってしまう。
 
いったん閉まった揚幕から、鼠たちを従えた大黒が出てくる。

鼠たちは、白垂、鼠立物つきの龍台、厚板、下袴(蚊相撲とかで、大名が素襖の下に穿いてるアレ)。
アウターは側次(と、前述の資料に書かれていました)。
 
次々に未知の展開が広がっていくので、驚きすぎて完全には覚えてないんだけど、

大黒が定座で葛桶に座って、語りをなさり、そのあとに橋掛りに退かれて、
じゃあ、見物しましょうかね、という態になる。

すっかり和やかな雰囲気。
こんなに和んじゃって、この後ほんとに鈴之段を踏めるもんなのぉ?
 
しかし、ちゃんと鈴之段は始まりました。
最初は静かに見物している大黒サマですが、そちらへ向かって黒式尉が鈴おどしをすると、
呼応して大黒サマも小槌を振る!
 
黒式尉が足を踏み鳴らすと、大黒サマも、足拍子で一緒にリズムを刻む。 
黒式尉が面替りをすると、鼠たちは身体ごと回りながら拍子に乗る。

あまりに様々なことが起こったので、太鼓が使われたタイミングの記憶が定かではないんだけど、たぶん鈴之段の後だったかと。

大黒サマと鼠たちの為の太鼓。
狂言方の為に、太鼓が「翁」のなかで叩かれるなんて演出があるんですねー

鈴之段が終わると、大黒サマが黒式尉に、小槌と宝の袋(?)をプレゼント。
そうそう、この小槌と宝の袋は、ずーっと大黒サマが肩に担いでいたのです。
 
黒式尉の背後には深田さんが回り込んで控えていて、プレゼントの品々は深田さんへと速やかに預けられる。
何かの授賞式みたいな雰囲気です。
 
でも、このとき、まだ萬斎さんは黒式尉ですから!
大黒サマと鼠たちを見送ってから、萬斎さんは面を外し、お一人で橋掛りを去ってゆかれました。
 
ただいま「大黒風流」という不思議な小書に、興味がフツフツしてます。
調べてみると、「蟻風流」なる小書もあるようで、いつか必ず観てみたいリストに追加決定!
 

一調「難波」金剛永謹さん&龍謹さん、太鼓が三島元太郎さん。
 
仕舞「鷺」
観世喜之さん
地頭は文藏さん。
喜之さんの金茶の裃が素敵。
 
鞍馬天狗 白頭 素翔」
山伏(実は大天狗)が野村四郎さん、牛若が谷本康介くん。
 
花見の子方ちゃん達が、斎藤葵ちゃん&斎藤凛ちゃん&武富友香ちゃん&福王登一郎くん&井上華菜ちゃん&水田芽穂ちゃん。
 
僧正が福王茂十郎さん、従僧が福王知登さん&森本幸治さん&喜多雅人さん。
 
頭力が太一郎くん、木葉天狗が深田さん。
木葉天狗の幕は裃の裕基くん。
 
囃子方が、赤井啓三さん&曽和鼓堂さん&守家由訓さん&上田悟さん。

山伏は品格があり、粗野で無粋な人物には見えない。

能力は、記号的に山伏コーデを捉えて、粗野なヤツ、と断じたのでしょうね。
他方で、牛若ちゃんは、純粋な観察のみに基づいて、相手の人となりを把握したのでしょうね。

そう考えると、山伏に品格を感じちゃった観客は、牛若ちゃんの視点で観ているのでしょうか。

前場の途中で、四郎さんは鼻血が
出てしまわれたのですが、そのまま続行なさる。
四郎さんが慌てるそぶりを一切なさらないので、後見のお三方は、まだ異変に気付かない。
 
あ、でも、このあと牛若ちゃんと向き合うシーンあるよね、康介くんが怯えちゃうんじゃない?
 
血が顎にまで伝い流れてるので、衝撃が大きいのではないか、と心配で私は内心ジタバタ。
 
が、どっこい、四郎さんと対峙しても、康介くんはビクとも怯まない。
牛若ちゃんのまま、次々と謡をこなしてゆかれる。
 
この胆の据わり様、頼もしいです!
 
シテが牛若ちゃんと向き合うシーンの暫し後に、後ろを向く場面があり、
そこで、副後見のお二人に緊張がさっ走る。
あ、いま認識された、と分かるくらいに。
 
大人でも一瞬ポーカーフェイスが乱れるほどなのに、やはり康介くんてば大物です。
 
主後見さんには、副後見のお一人が耳打ちされ、ここで後見の皆様と見所の情報が共有されました。
 
後見メンバさんが事態を把握されている、と思うと、不安感が不思議と緩和されるものですね。
 
その後、主後見さんが機会を見計らって、血を拭いに立たれました。
拭うまでに少々時間が経っていたためか、硬化しちゃって拭いきれませんでしたが。
 
さて、後場では、装束をチェンジしてきた牛若ちゃんが、
「かくかくしかじかの勝負コーデでキメてきたよ~」と、ご自分の装束を詳しくを謡いあげます。
なにやらアイドルっぽい!
楽しくなってしまう。

後シテが無事に出てこられるか心許なかったけど、しっかり登場されました。
最初は緑の葉っぱ付きの杖をお持ちになり、
途中でから、腰に挿した天狗の団扇(配布された資料には"羽団扇"と記載されてました)に、チェンジ。

団扇を扱う所作に、威厳とキレがあり、カッコよかったです。


今回の公演パンフは、
大槻能楽堂リニューアル記念誌」なる冊子。
 
リニューアル記念公演は、前日の1月3日を封切りとして、3月28日迄に渡り、全7公演が予定されているそうで、7公演共通の番組表を兼ねた、豪華パンフ。
 
最終ページには、「ご寄付者一覧」なるリストが。
万作家からは、
 
万作さん、
萬斎さん、
深田さん、
高野さん、
株式会社  万作の会
 
のお名前がありました。
 
能楽界の方々のお名前が多々あったのは勿論ですが、文楽界からも。
吉田簑助さん、桐竹勘十郎さん、吉田玉男さん、六代呂太夫
 
藤田六郎兵衛さんのお名前もあり、ハッとさせられました。
 
述べ1503件のご寄付があったとののこと、リストに掲載されているのは、その半数に満たない件数でしたが、意外な方のお名前もあり、リストをたどるのは、なかなか面白かったです。