萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第92回 野村狂言座」を観る

12月18日、宝生能楽堂へ。

最初の解説は、石田幸雄さん。

狂言「膏薬煉」
上方の膏薬煉が裕基くん、
鎌倉の膏薬煉が淡朗くん、
後見が飯田くん。

色違いのオソロの装束すてき。
鼻に貼り付けた長い短冊が、ニュータイプのマスクのようです。

身体を反らせたり、ねじったりのタイミングが両者バッチリで、膏薬の効き目がそこまであるんかいっ
と思いつつも、シンクロがミゴトなので、ヨーシその設定、受け容れちゃおう!という気にさせられます。

狂言「千鳥」
太郎冠者が野村又三郎さん、
主が野村信朗さん、
酒屋が野口隆行さん。

一家に一人欲しくなるような太郎冠者。
エネルギッシュで、頭の回転も早くて、愛嬌もある。
ちょっと生意気な口をきくとこも、ひっくるめて、酒屋は気に入っているのでしょうね。

太一郎くんによる小舞「鶉舞」。
地謡は、深田さん&高野さん&内藤くん&淡朗くん&裕基くん。

「歩いてるだけでカッコいい!」←これ、入場してきた裕基くんについての、母の感想です。

はい、私も全く同感でございます。

さっきも、上方の膏薬煉としてのお姿は目にしたんだけど、
こうして、裕基くんご当人として登場されると、カッコよさがパワーアップするのですよねー

太一郎くんの陽性オーラ全開でした。

コロナのニュースばかり流れてくるこのご時世、陽性というワードのイメージダウンが著しいですが、ここでは誉め言葉です。

狂言が発祥した頃に生きていた人たちは、こんな風に軽やかに歌舞を楽しんでたんだなー、と感じられました。

萬斎さんによる小舞「鉄輪」
地謡は、「鶉舞」と同メンバ。

萬斎さんは錆納戸色の袴。
扇は神秘域でしょうか。

萬斎さんてば、情念ドロドロ系が、なんとお似合いなるのでしょうか。

背後には、得体の知れない何かが蛇のように渦巻いているかのよう。
振り乱したご自身の長い髪(ほんとは長くないはずだけど)なのか、
それとも、ゴッホの「星月夜」を赤錆色に変換したを闇空なのか。

地謡も、めちゃくちゃ素敵でした。

狂言「仏師」
すっぱが中村くん、
田舎者が石田幸雄さん、
後見が内藤くん。

仏像のポーズが気に入らなければ何度でも直してやろう、だなんて、アフターサービスの行き届いたすっぱです。

すっぱは、すっぱなりに、誠意があるのですね。
石田さん、もうその辺で手を打ってあげてよぉ、と思えてくる。

中村くんのお人柄によるのでしょうか。

狂言「蜘盗人」
貧者が万作さん、
主が萬斎さん、
太郎冠者が月崎さん、
立衆が高野さん&竹山さん&深田さん&飯田くん&岡さん、
後見が淡朗くん&裕基くん。

万作さんが退出する時の言葉が、心に残りました。
「あまりの恥ずかしさに、はじめ入ったところから、おかえしなされて下さいませ」と。

この人物の品性が感じられます。
貧富と品性は関係ないのですねー

今回、古歌を万作さんが詠む場面で、万作さんがふと、セリフに詰まられたご様子に。
プロンプタの声が何度か掛かりますが、万作さんのお耳に届かぬようで。

演者のどなかかも、プロンプタに加わられて、何度目かに漸く、万作さんに伝わったのでした。

その時、裕基くんのお姿は舞台上には無かったのだけど、プロンプタをなさるお声は、キリリと通りました。

私はかなり後ろの方のお席だったので、私がヒアリングできちゃうのはヨロシクないのかもしれないけど、
きっと、最初のうちはもうチョイ小声でトライされていたのでしょうね。

裕基くんにとっては、未演であろう演目の後見だったかと思いますが、よりによって後見の最重要任務発動の事態にぶちあたってしまい、ドキッとなされたことでしょう。

お後見て、ご自分が演じたことのない曲でも、ほんとーにセリフをちゃんと覚えて臨まれるのですね。

「「萬斎インセルリアンタワー 20」を観る

12月16日、セルリアンタワー能楽堂へ。
見所に、杉本博司さんのお姿。

最初に萬斎さんによる解説。
茄子紺の紋付きに袴。

時々、お言葉が出てこなくなってフリーズなさる。
そのご様子がかわゆくて、フリーズなさろうとも、十分に間が持ちます。

賽の目
採用される聟が中村くん、
舅が深田さん、
太郎冠者が月崎さん、
不採用になっちゃう聟が、岡さん&内藤くん、
深田さんの娘が飯田くん、
後見が淡朗くん。

不採用を宣告された内藤くんが、橋懸りを戻っていくと、向こうから、ツツーッと出てきた中村くんに行き遭う。
お互いに身体を斜にしてすれ違う場面が、映画のワンシーンみたいで印象的。

お互いに恋敵だと、ピンときた、って風でした。

狂言「寝音曲」
太郎冠者が萬斎さん、
主が高野さん、
後見が月崎さん。

太郎冠者さまは、
テールグリーン地に三匹の兎の肩衣。ウサギちゃんの目はボルドー色。
白地に小豆色の格子の縞熨斗目、朱色に露芝模様の狂言袴。

クリスマスカラー

鬘桶の蓋は金の露芝模様。
袴とリンクさせてるのねー
なんてお洒落なんでしょ。

この晴れやかなキラキラしさは、どうしたことでしょう。
ハッとするほど艶やかな、太朗冠者さまでした。

さて、五輪開閉会式の演出チーム解散の会見が行われたのは、
この公演の1週間後のことでした。

セルリアンの解説のなかで、コロナで中止となってしまった演劇界の苦渋を出産に例えられ、

「大変な生みの苦しみを経て、ようやく出産という段階になって、それが無になってしまった、というのは、本当にやりきれなかったろうと思います」

といった主旨のことを仰っていたことが、解散ニュースを聞いて、まざまざと蘇ってまいりました。

あれは、演劇界の苦しみに、五輪開閉会式の演出た携わってこられた、ご自身の思いを重ねての、ご発言だったのかもしれませんね。

また、こと公演の通例では、解説のあとに質疑をお受けくださっていましたが、今年は無しで。

コロナ対策なのだろうと思い込んでいたけど、今にして思えば、五輪関連の質問を避ける意図もおありだったのでしょうか。

五輪開閉会式の演出チーム解散の会見は、ノーカット版を夜、会社から帰ってから拝見しました。

萬斎さんは1回目のご発言の後に、目を何度もシバシバ瞬かせてらして、涙をこらえておられるの?と、私はオロオロ。

かれこれ7~8年くらい前でしょうか、
国立能楽堂での「花盗人」で
落涙された時と、まったく同じ「シバシバ」なんだもの。

その時は、シバシバさせて踏ん張った末に、崩壊しちゃったのだけど。

桜の枝を盗みに入って家主(万作さん)に見つかり、桜の木に縄でつながれ、死罪を宣告されるシーンだったと記憶しています。

でも、でも、この会見は、どうか全集中で止血、いえ、止涙なさってくださいーー
と、念じる私。

私の個人的な嗜好からすれば、
あのお方が落涙なさる光景だなんて!ウェルカム!!なんだけど、

ご当人としては、あの会見の場では、どうあっても涙を見せるのは本意ではなかろうと思ったら、念じずにはおられず。。。

放映された画面の範囲では、無事に防御できたようで良かったです。

そして、このような複雑な状況での会見は、質疑応答の1つ1つが、ロシアンルーレットのような怖さを孕んでいる気がしますが、
萬斎さんのご回答は、非の打ち所がありませんでした。

萬斎さんが選ばれるお言葉の的確さには、ひれ伏すばかりです。

口に出さずに胸に秘めおかれた事柄は、そりゃも~山ほどあるでしょうが、
少なくとも口に出された言葉は、真意なのだと感じられました。

ご無念さは、いかばかりかとは思いますが、子午線の祀りにスッパリとお気持ちが向かわれますように、と願っております。

「第九回 佐久間二郎能の会 三曜会」を観る

12月5日、国立能楽堂へ。

最初に、落語立川流 立川談四楼さんによる「おはなしー曽我物語」 

続いて仕舞「小袖曽我」 

十郎祐成(兄)が永島充さん、
五郎時致(弟)が佐久間二郎センセ。

このあとに上演される「夜討曽我」と同じ配役にしたんですね。
・・・と、仕舞を観てる時は、その程度にしか考えていなかったんだけど、

これは佐久間センセが入念に仕組まれたエピローグだったのです(たぶん)。

・・・ということは、帰路についてから、ようやく気付きました。

「小袖曽我」は、曽我兄弟が仇討ちに出発する前までのお話なので、ここから物語は、はや、動き出していたのです。

そのあとの観世喜之さんの仕舞「羽衣」も、
曽我兄弟が仇討ちへ向かってる頃、平行して三保の松原で、こんなことがあったのね、と捉えている自分がいたのです。

さらに、仕舞に続いて上演された
狂言「成上り」も、
時を同じくして、鞍馬では、参詣に来た主従がこんな目に遭ってたのねー、という気持ちに、私はなっいたのです。

太郎冠者が弁慶パパの逸話を語ったりしてるから、時代的にも、なかなか辻褄が合うし。

つまり、「羽衣」や「成上り」という外伝を差し挟みつつ、「夜討曽我」に至る、という構成のように感じられ。

なので、とてつもない壮大な物語を、番組全体を通して味わった気持ちになりました!

さて、その狂言 「成上り」です。     
太郎冠者が萬斎さん、主が裕基くん、すっぱが高野さん、後見が中村くん、幕が内藤くん。

太郎冠者さまは、黄色地にターコイズブルーの格子の縞熨斗目、裾の方が狐色のグラデーション。
蓑虫が配された狐色の肩衣、2本の唐団扇の紋の腰帯、苔色の狂言袴。

萬斎さんの、いろーんな声色が聴けて嬉しい。
すっぱを捕らえた後、太郎冠者がことごとく的外れなことを仕出かすのが、もう楽しいったらなかった!

本来の上下関係と逆転して、裕基くんが萬斎さんに対して、呆れたり怒ったりするのにも、ニマニマしてしまう。

裕基くんの立ち姿が美しい。
観ている人に美を感じさせるのは、とても重要なことだなーと、しみじみ思うこの頃です。

あと、高野さんの重ね扇の腰帯が、すてきでした。


能「夜討曽我 十番斬 大藤内」

五郎時致&が十郎祐成が、先程の「小袖曽我」のお二人。

団三郎が坂真太郎さん、
鬼王が谷本健吾さん。

新田忠常が福王和幸さん。

大藤内が万作さん、
狩場の者が萬斎さん。

十番斬りされるのが、
青木健一さん、
中所宜夫さん、
松山隆之さん、
馬野正基さん、
鵜澤光ちゃん
奥川恒治さん、
桑田貴志さん、
小島英明さん、
北浪貴裕さん、
遠藤和久さん。

古屋五郎が、角当直隆さん。
御所五郎丸が長山耕三さん。

宿直の侍が、中森健之介くん&奥川恒成くん。

笛が松田弘之さん、
小鼓が鵜澤洋太郎さん、
大鼓が広忠さん。

地謡は、観世喜正さんを地頭に5人編成。
フェイスシールド等は無し。

後見は、観世喜之さんを主後見に3人。

「大藤内(おおとうない)」は、狂言方の小書。
六世万蔵さんのご著書によると、替え間の扱いになるそうです。

「橋弁慶」の替え間「弦師」に似ていました。

とぼけたコントのようなアイなんだけど、凄いのは、
仇討ちを果たしたらしい、という情報が、アイでチラッと触れられるだけ、ということ。

あんだけ色々とタメを作っておきながら、肝心の仇討ちシーンは全く見せない、と。

あと、萬斎さんが万作さんをからかうんだけど、冗談の中に隠された意地悪がリアルに怖い。
月見座頭のアドにも通ずるような怖さ。

十番斬り、固唾を飲んで見入りました。
兄弟が、本舞台と橋懸りに分かれて戦うので、うわうわ、どっちも観たいのに~、というジレンマが。

奥川センセとかの重鎮クラスの方々まで斬られ役で出ておられるって、贅沢です。

十番斬の後に登場したが福王和幸さんが、肩上げの法被に厚板、白大口、烏帽子というお姿で、文句なしのカッコ良さ。

法被は、黒地に、えらく大きい金色のイタリア華紋が配されているんだけど、スラリと背が高いので、衣装負けしません。
十郎は福王和幸さんに切り殺されてしまいましたが、斬られ甲斐のある相手だったんじゃないでしょうか。

五郎は、若き宿直の侍コンビに両脇から引っ立てられて、前傾体勢ならぬ後傾体勢のまま引き摺られて!幕入となりました。

国立能楽堂の長い長い橋懸りを、少しの突っ掛かりもなく、それは見事な大滑走でした。
幕の向こうで、五郎も殺されたってことなのでしょうね。

でも、不思議な爽快感がありました。

何としても、この小書をやりたい、という佐久間センセの熱意が満ち満ちていて、
さらに、それに賛同して、よそのお家からも多く方々が斬られに駆けつけた、という風に感じられたからかも。

斬られた皆さまも、実は滅多にない小書を楽しんでらしたのかしらねー

「第4回 文の会」を観る(色の読み方の追記版)

11月29日、観世能楽堂へ。

最初に武田崇史さんによる解説。

武田志房さん&金春惣右衛門さんによる一調「高砂

仕舞4番は、
坂井音晴さんの「生田敦盛 クセ」、
武田志房さんの「芭蕉 キリ」、
観世宗家の「花筐 狂」、
林宗一郎さんの「山姥 キリ」

「柑子」
太郎冠者が太一郎くん、主が高野さん、後見が内藤くん。

太一郎くんは、鳥の子色の地に紺色の石垣がパラリと配された肩衣。
・・・というのは前見頃の柄で、バックプリントは大きな蛙。
私は蛙が居ない前柄のほうが、特に好き。

ミカンを懐に入れてた太郎冠者が歩く、往来の空気を運んでくれるかのよう。

太郎冠者の言い訳、とても手がこんでいてアッパレです。

主も途中からアヤシイ・・・と気付いてたのかもしれないけど、
面白いから最後まで泳がせてみよう、と思ってたんじゃないかしら。

こんだけ楽しませてくれたんだから、ミカンのことは許してあげて欲しいです。


野村四郎さん&広忠さんによる一調「江口」


屋島 弓流 那須与市語 」 
シテが武田文志さん、ツレが武田宗典さん、
ワキが殿田謙吉さん、ワキツレが梅村昌功さん&御厨誠吾さん、
アイが萬斎さん、
囃子方が亀井忠雄さん&観世新九郎さん&栗林祐輔さん。

地謡は、武田志房さんを地頭に、8人編成。
後見は、観世宗家が主後見で3人。
囃子方と後見は長裃。
地謡は、普通の丈の裃。

前シテの去り際に、シテと地謡が交互に謡うとこ、謡がかっこよかった。
8人の地謡パワーでしょうか。

シテの中入のあと、橋懸りに控えていた萬斎さんが、いよいよ本舞台へ。

萬斎さんは、松皮菱の褐色(かちんいろ←萬斎さんが最近お教えくださった色の名前。"戦に勝つ"に掛けて"かちいろ"とも言うのだとか。配信実況だったか、ラジオだったか、どちらかでご教示くださったのでした。)の長裃、ブルーグレー&胡桃色&白の段熨斗目、水色の襟。 
    
狂言後見は、裕基くん~
紋付裃がキマってる。

そして、後見座に座った瞬間から、とても佳き面構え!

いまから、ご自分が奈須をかたるかのような。

翌日(11/30)は、栃木で裕基くんの奈須があったようで、その最終仕上げとして、後見のお役目を、ということでしょうか。

いやー
じっさい、萬斎さんの奈須が激しいのなんのって。
ビシビシ気が飛んでくるんだけど、見所だけでなく、背後の裕基くんへも向けて飛ばしおられたような。

よく見とけよ、と。

私も、聴覚と視覚を研ぎ澄まして臨みました。
メキメキ若手くん達が育ってきてしまったので、もうこんなチャンスは次いつ巡ってくるか分からない、これが最後のチャンスかも、という覚悟で。

育ってきてしまった、と書くと、否定感が出ちゃうでしょうか。
若手くんたちのご成長は、もちろん喜ばしいことです。
でも、萬斎さんのアイを観れるチャンスが減じてしまうのは、やはり寂しい。

アイを務められる萬斎さんご当人にトキめき、
また、萬斎さんが舞台上に召還なさった物語の鮮やかさにも、トキめかされました。

戦の場の緊張感や、武将たちのコーデがキラめく様や、海上に沢山の船がひしめく景観に、ワクワク、ゾワゾワッ、と。

義経になった時のお声が、特別に低くてカツベツ。
そして、ナレーションのお声は、もーっと重低音で、更に更に極上でした。

語り終わられて橋懸りへ退かれると、左の前髪が乱れて、頬骨のあたりまで。
登場された時は、前髪をキレイにサイドへ撫で付けられていたのですが、熱烈な語りで、いい感じなザンバに。

子午線で知盛サマになるために、伸ばしておられるのでしょうか。

後シテは、法被を肩上げにしていたのだけど、これがとても素敵な柄。

小豆色の地に、金糸で無数の渦巻がびっしり。その渦巻きの中に、笹竜胆が見え隠れしているのです。

笹竜胆が入ってるってことは、屋島オンリーにしか使えない法被ということでしょうか。
究極の贅沢ですねー

「能を知る会 横浜公演」を観る

11月26日、横浜能楽堂へ。

最初に、葛西聖司さんによる講演「能の小書 歌枕の力 名所幻想」

葛西さんが仰ることには、「酌之舞」の小書は、色々な小書の段階を踏まないと出来ないそうで。

貫太センセは、「十三段之舞」とかの小書を経て、やっと、この小書のお許しを頂いたのだとか。

一方、今回の狂言薩摩守」とは、薩摩守忠度のこと。
忠度は平家の武将でありながら、歌人でもあり、
「さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな」の歌を詠んだ人。

これぞまさに、今は荒れ果ててしまった六条河原院のよう、と葛西さん。

今回のは「謡入」の小書がつき、「兼平」の謡いが入るそうです。
その「兼平」というお能では、船頭が名所を教えるシーンがあるそうで。

おおーっ
繋がった~
融でも名所教えのシーンがあるので、名所教え繋がり、ということで、狂言の演目がセレクトされたのですねー

狂言薩摩守 謡入」
船頭が萬斎さん、茶屋が深田さん、僧が飯田くん、後見が中村くん、幕が淡朗くん。

萬斎さんは、オール栗色のワンカラーコーデ。
ダメージ仕様(に意図せずして到達したとおぼしき)スレッスレの長裃、よろけ縞の水衣、変わり亀甲の腰帯。

頑固オヤジ風の船頭サマです。

船頭サマが船をこぎだす前に、謡を。
うーわー
エエ声や~
と、琵琶湖あたりに住まいする通行人になった気分で、愉しくなる。

何より、こういう小書が入ったとき、昔の観客の方々は、葛西さんが居なくとも、ははーん、船頭だから兼平を謡うんだナ、にやり・・・と、していたんだなー、と、そんなことに思いを馳せるのが愉しい。

船頭サマが舟をこぎ始めると、たちまち船弁慶の船頭サマに見えてきてしまう。

手首を上に返すようにして棹をご自身に引き付けつつ、上体を反らせる姿にホレボレでした。

オチの洒落も、兼平の謡と同様に、昔の方々は、これまた葛西さんの解説を聴かずとも合点がいって、ニヤリ、としていたのでしょうね。

「融 酌之舞」
シテが貫太センセ、ワキが森常好さん、アイが内藤くん。
地謡は、観世喜正さんを地頭に4人。
囃子方松田弘之さん&鵜澤洋太郎さん&安福光雄さん&太小寺真佐人さん。

松田さんの笛が素敵でした。

後シテは、黒垂。
チラシのお写真では、地アタマのままのようでしたが、黒垂の方がダンゼンいい。
偏執的なオーラが増す気がします。

ふと、小池真理子さんの「狂王の庭」を思い出しました。
ということは、「融」は、ルードヴィッヒ二世にも通じるのかも。
ルードヴィッヒ二世が「融」を観たとしたら、ワ・カ・ル~、と歓喜したことでしょう。

「第6回 よみうり大手町・狂言座」を観る

11月22日、よみうり大手町ホールへ。

最初に萬斎さんによる解説。
このところ、萬斎さんの解説の機会が激減しているので、ありがたさにジーンときます。

今回の解説で学習したことは、
「二人袴」の聟と親は、ホントは素襖裃を着ている態である、ということ。

劇中で二人で着まわすのが長袴と上衣の両方だと、脱ぎ着が大変だから、それで長袴オンリーを着まわしている、と。

素襖裃は、モーニングのようなもの、とも仰っていたので、そんなら確かに上衣もマストですね。

「栗焼」
太郎冠者が万作さん、主が深田さん、後見が淡朗くん。
万作さんが焼けた栗を手に取って、

あち、あちあちあちあちあち、
ぽむっ ぽむっ、
ふーっ ふーっ 
と、なさると、
モーレツに焼栗が食べたくなってくる。

モンブランとか、マロンフラペチーノとかのスイーツも美味しいですが、純正たる栗への欲求がふつふつと。


「二人袴」
聟が裕基くん、親が萬斎さん、舅が石田幸雄さん、太郎冠者が月崎さん、後見が飯田くん。

今回の私のお席は、目付柱(のあるべき位置)のちょい外側のお席だったのですが、ホール公演だと、ここは神アングルだ!という発見が。

まず、聟と入れ替わりに舅に対面した親は、舅から聟はどうしちゃったの?と指摘されます。

う、気付かれたか~、
と聟の居るべき空席をチロン、と見やる萬斎さんの流し目が、マトモにくらえるお席だったのです。

いや流し目のおつもりではなく、
“ったくぅ!”という心情を映したオメメなのでしょうが。

そのあとも、聟と親が二人とも揃っての酒宴になってからは、聟が失言するたびに、何度も
“ったくぅ!”流し目を聟に浴びせる。

うはぁっ またまた悩まし気バツグンな流し目が、こっちにマトモにくる~

能楽堂だと、限りなく目付柱に近い中正面というエリアに該当するので、この流し目を至近距離でくらおうと思っても、目付柱に阻まれてしまうことでしょう。

トクした気分。

あと、連舞の謡がうつくしかったです。

「十一月 五雲会」を観る

11月14日、宝生能楽堂へ。

能「岩船」
シテが高橋憲正さん、ワキが野口琢弘さん、ワキツレが野口能弘さん&吉田祐一さん。
アイが岡さん。

颯爽と始まりました。
囃子も、ワキ&ワキツレの謡も。

12:00開演って早すぎない?と思ってたけど、シャキッと正午に、この颯爽感、これはアリですねー

高橋憲正さんのシテを拝見するの、はじめてかも。
これまでに講座は何度か受講していて、お人柄&ヴィジュアルともに好きになり、いつかシテをなさるところを拝見したい、と思っていたのでした。

前シテのお姿、ステキでした。

黒頭に童子の面、鮮やかな空色の水衣、雪輪&瑞雲が配された縫箔。
瑞雲には、細かい七宝つなぎの柄がミッシリ金糸で施されています。

宝生の定期公演は、すべての装束をお家元が選んでくださる、と聞いたことがあるけど、
憲正さんに合わせて、お家元が
このファンシーなコーデをセレクトなさった、と考えると、ニマニマしちゃいます。
とてもマッチしてました。


狂言「鐘の音」
太郎冠者が裕基くん、主人が淡朗くん、後見が月崎さん。

裕基くんは、白地に若竹色の格子の縞熨斗目変わり亀甲の腰帯、鴬色の狂言袴、波がしら&橋が配されたスカイブルーの肩衣。

肩衣は、秋晴れの鎌倉空を映したかのよう。
そんな清々しい空のもと、
裕基くんとともに鎌倉めぐり。
なんとゆー贅沢!

最初に訪ねた寿福寺では、のっけから、佳い音色~

ここでそんないい音だしちゃうと、オオトリの建長寺で、ソートー頑張らないと、差が出にくくなっちゃうんじゃない?・・・と心配になってしまう。

が、建長寺では、その遥か上をゆく、゛さてもさても佳い音色゛でありました。

それと、鐘をつく所作がキレイなのです。ずっと観てたい。
もっと長いことお寺巡りつづけて欲しかった。

主を怒らせちゃって、お詫びのため(?)に謡うシーンでは、「そくびを・・・」と、ご自分の首筋に手刀を当てる所作が美しい。

音色も、所作も、お父さまの気配が色濃く感じられる、ひとときでした。