先日、国立能楽堂の図書閲覧室で「翁」のDVDを観てまいりました。
実は、先月アタマに大槻能楽堂で観た「翁」の小書「大黒風流」があまりに面白かったので、他の小書も観てみたい、と思い立ちまして。
観賞したのは、
「翁 父之尉風流」(1994/9/15上演)
「翁 蟻風流」(1983/9/17上演)
の2本。
まずが「翁 父之尉風流」。
翁は金春信高さん。
大鼓は亀井忠雄さん。
大鼓後見は腕しか映らなくて、お顔は識別できず。
三番叟が万作さん。
千歳が野村武司くん(いまの萬斎さん)
18歳の武司くん!
三番叟を披かれたのが、1984年1月ですから、その8ヶ月後の映像ということですね。
武司くんは、鶴亀が配された紺色の亀甲模様の直垂に、金糸・銀糸がふんだんにあしらわれた朱色の厚板。
屈めた身を起こす時や、身体の向きを返す時の所作に、いまの萬斎さんへ至る片鱗がうかがえます。
お声は、いまの萬斎さんのお声ほどは低くなく、ところどころで、あ、いま萬斎さんヴォイス出た!という風でした。
ご著書「萬斎でござる」によれば、萬斎さんは20歳で奈須の披きをされたそうですが、「長らく声が定まらなかった」ので、奈須の披きの年齢としては早い方ではなかった、とのこと。
ということは、“定まる”以前のお声なんですね。
父之尉風流の出演者は、
父之尉が野村万之丞さん(いまの萬さん)、
子(延命冠者)が野村良介さん(いまの万蔵さん)、
砥石の精が能村英丘さん、
高尾の八夜叉が野村耕介さん(太一郎くんパパ)
他に、トモが5人。そのうちのお一人は若き日の石田さん。
鈴之段のあとに、子(直面でした)が現れて、揚幕へ向かって呼び掛けると、父之尉がトモを従えて登場。
父之尉のコーデにびっくりしたのですが、いわゆる翁コーデの装束に、白垂をかぶっておられ。
さて、砥石の精というのは、橋掛りに出てきた石の中から登場します。
さらに、そこへ八夜叉が出てきて、父之尉と砥石の精とともに、三人で相舞になる、というシュールな展開に。
この相舞の時の謡はシテ方ちっく。
そもそも父之尉コーデが翁ですし。
狂言後見を含めると、狂言方が13人も登場する、おもしろ―い翁でした。
が、もう1つのDVDでは、狂言方がさらに大人数で登場し、さらなるシュールな世界があったのです!
「翁 蟻風流」。
翁は観世元正さん(いまの観世宗家のパパ)、
千歳は梅若紀彰さん。
笛は一噌幸政さん。
笛後見はお名前が記載されていませんが、どうみても一噌幸弘さんだー
三番叟は野村万之丞さん、
面箱が野村又三郎さん(いまの又三郎さんのお顔ではなかった。又三郎さんパパ?)
穴師の明神が和泉元秀さん、
蟻の精が野村耕介さん、
地謡が、万作さんを地頭に、10人。
狂言方の地謡も最初から登場し、橋掛にズラリ、と。
端然とした万作さんのお姿がうつくしい。
そして、何より私が心惹かれたのが、蟻の精。
蟻の精は、揉之段が終わった後に、現れました。
さいしょ現れたときは、こわかったんです。
ナゼそれをセレクトした?と訊きたくなる不気味な面に、黒ガシラ、黒い着ぐるみ。
でもトータルの姿は、妙に可愛らしい。
蟻の胴体らしきパーツをシッポのように腰に付けていて。
語りも、四つん這いの姿勢のまま、こなしちゃいます。
万之丞さんが、「まだ鈴之段をやってないから、今からやるからソコで見てて」(意訳です)なーんて言うのも楽しい。
そんななか、穴師の明神が乱入してくる。
彼も、万之丞さんに「見てて」と言われるんだけど、「一緒に舞おう!」と提案。
そんなら三人で舞おうってなって、なんと三人で鈴之段を。
といっても、蟻の精は四つん這いのままで舞うんですけど。
リズムにのって楽しげで、私は蟻の精に釘付けでした。
いつか生で、この小書を観てみたいです。