5月25日、国立能楽堂へ。
「梟」
山伏が善竹忠亮さん、
兄が茂山忠三郎さん、
弟が善竹大二郎さん。
兄の肩衣は、女郎花色に墨で大きく描かれたカニ。
掠れ具合といい、ユーモラス感の抑制加減といい、好みのタイプ。
こんな夏帯が欲しい!
この演目、万作家バージョンにて、以前に観たことがありました(万作家の演目名は「梟山伏」)。
梟の憑依の表現が、今回の方がリアル。
かなりの高周波で手をワナワナする。
流派による違いでしょうか。
ところで、山伏はワナワナ時間が短かったけど、完全には憑依されてなくて、半分は元の人格が残留してるのでしょうか。
うくくくく、憑依されてしまった・・・という無念さが漂っておりました。
「蝉」
シテ(蝉の亡霊)が野村又三郎さん、
ワキ(旅僧)が野口隆行さん、
アイ(所の者)が松田髙義さん。
地謡は、奥津健太郎さんを地頭に5人編成。
笛が竹市学さん、
小鼓が吉阪一郎さん、
大鼓が大倉慶乃助さん。
旅僧のビジュアルが、いかにもワキ方風。
カッサカサの無常観が素敵です。
こんなにも、おワキが似合っていると、本職のワキ方からスカウトされちゃうんじゃなかろうか、というくらい。
小吉が萬斎さん、
才助が石田さん、
大鮎が深田さん、
小鮎が、月崎さん&高野さん&内藤くん&中村くん&飯田くん。
後見が岡さん。
笛が竹市学さん、
小鼓が吉阪一郎さん。
清流に遊ぶ鮎たちの清涼感に、うわーって、嬉しくなる。
初演の時に拝見しているはずなのに、新鮮な驚きを味わいました。
川面が陽射しにキラキラする様子や、
所々で急流になって飛沫があがる様子に、初夏の爽やかさが溢れています。
萬斎さんは、紺の小格子の縞熨斗目、丸文の紺の狂言袴。
何てことないシンプルなコーデが、とてもお似合いになる。
まだ何者でもない、という焦燥感を抱えた若者に、ちゃんと見えるのですよねー
出世街道を駆け上がっていくステップを、小吉や鮎のポージングで、ポポポポ、ポンポーン、とテンポよく見せていくのが、小気味良い限り。
囲炉裏の枠が、風呂桶や番台などに、次々と見立てられて行くのも鮮やかで気持ちいい。
ここから先はネタばれになりますので、ご注意くださいませ。
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実は、出世の展開は夢だった、という事になるですが、まるで「邯鄲」のようです。
が、そこで悟りをひらかない、というトコが、「邯鄲」とは大きく違う。
未来を示唆されても、小吉は町へ出て富を得たい、という希望を覆さない。
帰宅して、初演時に購入したパンフを読み直してみました。
パンフには、原作全文が載っているのですが、原作では、ラストに小吉が悟りをひらいたか否かは書かれていないのですね。
てことは、やっぱり金が欲しーい、というくだりは、萬斎さんオリジナルでしょうか。
それが悪いとか、良いとかって分類するもんでもないのでしょうね。
小吉は、もしかしたら「藪原検校」の杉の市のような最後をとげるのかしら?
しかし、それが不幸せがどうかも、また人それぞれだよな、と思わされます。
これぞ多様性ということでしょうか。
見所に、金子直樹センセのお姿。