萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「梅村能の会 道成寺を観る 観世宗家特別出演」を観賞する

2月24日、観世能楽堂へ。

最初に、山中玲子先生による解説。

乱拍子の途中で、謡のなかに道成寺の名前の謂れがでてきたら、そのあと直ぐ調子が急変します、とのご説明。

それを意識して観れたので、そのポイントの箇所がよくわかりました。
わかると、おっ来るな!と、ワクワク感も、いっそう盛り上がるものなんですねー


「蝸牛」
太郎冠者が萬斎さん、主が高野さん、山伏が深田さん。
後見が淡朗くん。

萬斎さんは、黄色にグリーンの格子の縞熨斗目。裾の方は、茶のグラデーションになってる。
肩衣は、茶にミノムシが染め抜かれたもの。
明るめの紺の狂言袴。


今回の配役、はじめて観た。
なんと可愛らしい笑顔の太郎冠者なんでしょう。

太郎冠者が夢中になって囃していると、それに業を煮やした主が背後から袖をひっぱる。

ひっぱられて、身体がそっちに傾く。
1回ひっぱられればクイッ。
2回ひっぱられればクイクイッと。

なんということもない所作なのに、軽やかでキレイなんだー


道成寺 赤頭 中之段数躙(なかのだんかずびょうし) 無躙之崩(ひょうしなしのくずし)」

シテが観世宗家、ワキが梅村昌功さん、ワキツレが舘田善博さん&則久英志さん。
オモアイが萬斎さん、アドアイが裕基くん。

囃子方は、一噌隆之さん&広忠さん&観世新九郎さん&金春國直さん。

鐘後見の先頭は坂口貴信さん。他4名の中に観世三郎太君のお姿。

狂言方鐘後見は、太一郎くん・内藤くん・飯田くん・中村くん。

この順番に、鐘を下げた太い竹を担いで入場。
綱の滑車通しは中村くん、滑車の向こうから綱を受け取るのが太一郎くん。

中村くんがまず、綱の先端を竹竿A(としときます)に挟みこんで滑車に通し、滑車の向こうに綱の先端のワッカになったところがピロッと顔を出すようにします。

ここまでは至ってスムーズにいきました。
が、受け取りが中々うまくいかず。

受け取る側は、大きい釣り針みたいなパーツが先端に着いた竹竿Bを伸ばして、ワッカに引っ掛けるのですが、何度もトライもするも惜しいところで掠るばかり。

あわあわあわ
萬斎さ~ん
カモン!
太一郎くんがピンチなんですよぉ

あんだけ長い竹竿で、トライを何度も重ねるって、腕にはカナリの負荷のはず。
太一郎くんの腕は、もう限界かもしれませんよぉぉ

もう能力の装束つけてるだろうけど、そのカッコで助っ人に登場されから、むしろ自然かもしれませんよぉ。
だから、はやく助けにきてー

・・・と心中で叫びながら脂汗を流す私。


しかし!
中村くんがいるじゃーないですか!!

中村くんは、ご自分が滑車へ渡しかけている竹竿Aをまず背後の飯田くんに預ける。
ピタリと竹竿Aを支える飯田くん。

中村くんは落ち着き払って鐘の正面に回り込み、ヒタと滑車部を見据え、まず状況を掌握する。
すかさず太一郎くんに歩み寄り、竹竿Bを受け取ってワッカへ差し伸ばす。
で、見事にワッカに引っ掛けることができたのでした。

引っ掛けて少しだけ綱を引き出したところで、中村くんは何事もなかったように太一郎くんに竹竿Bを返却。

整然とした足取りで飯田くんのもとへ引き返し、竹竿Aを再度お手に。

一連の動きが、これが正式な手順です、てなくらいの落ち着きようでした。

なんて頼もしい若手くん達!
若手くんたちだけで、臨機応変に切り抜けることができて、ほんとうによかった。

私が心中で萬斎さんカモン!て叫んだのが、萬斎さんのお耳に届かなくてよかった。

しかし、こんなパターンがあるってことは、今回の飯田くんのポジションも、重要なお役目ってことですね。

さて、萬斎さんは、
裏柳色の能力頭巾。
濃紺のヨレ水衣、白地に紺のオリエンタル調の模様の腰帯、
白地に茶の変り亀甲ちっくな狂言袴の括り袴。
青鈍色の無地熨斗目。

裕基くんは、納戸色の無地熨斗目で、他は萬斎さんとオソロ。

笛座の前の辺りに控える萬斎さんは、白蛇のよう。
「フツーじゃないくらい、色が白過ぎる」というのは、終演後の同行者の感想です。

一方、橋掛に控える裕基くんは、藤田嗣治の描く女性のよう。
切れ上がった目といい、尖った顎といい、酷薄そうな空気感といい。


前シテは、あどけなさが残るような面差し。
壺折にした唐織の裾をギュッと握りしめていて、一途な雰囲気です。

鐘楼堂へ彷徨い込んできた前シテを見つけたオモアイ・能力サマは、
「これなるニョショウは!」で、いったん言葉を切り。
「・・・」「・・・」「・・・」

ん?
これって、“マ”だよね?
にしても長すいぎない?
もしかして“マ”じゃないのか?
・・・と思い始めたところで、能力サマは次のセリフを発せられたのでした。

こんだけ“マ”があったってことは、能力サマは、

「わっ 可愛いい! タイプ~ でも女人禁止って言われてるしなー、ううー 残念~
いや、でも取り合えず話だけきいてみよっかな。
可愛いから!!」

くらいのことを、目まぐるしく考えたのかも。

乱拍子のときは萬斎さんも橋掛かりへ移動し、裕基くんに合流して胡坐で控える。

ここで裕基くんも足を崩して胡坐へ。

同じ姿勢で隣り合って並ぶ、麗し過ぎる親子!
胡坐の膝に添えた手指の形までがおんなじ~

鐘が落ちたあと、どっちが報告に行くかを、萬斎さんと裕基くんが押し付けあう。

松や柱の死角が多くて、お二人の姿が見えにくかったんだけど、姿なしで声だけ聴いていると、いまセリフ発してるのはドッチか?とわからなくなってくる。


後シテの緋の長袴、フォルムがきれいでした。
床に長く裾をひいてるのが、蛇がのたうってるよう。

それと、腰の右側に片結びが少しほどけかかったような幅広リボン(?)が垂らされているのも、好き。
視覚的な引っ掛かりがあるとこが、なんともいえず良いのでした。