萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第103回 粟谷能の会」を観る

3月1日、国立能楽堂へ。

「朝長」
青墓の宿の長者&朝長の霊が粟谷明生センセイ。

僧(実は朝長の乳母子)が森常好さん、従僧が舘田善博さん&梅村昌功さん。 

アイ(長者内の者)は萬斎さん。

囃子方は、一噌隆之さん&鵜澤洋太郎さん&広忠さん&大川典良さん。
広忠さんは、灰茶色の袴に黒紋付、ブルーグレーの襟。
 
前場で、青墓の宿の長者が、朝長の最後をが語る中、
「膝、射させたまい」(詞章はうろ覚えなので、ちょっと違うかも)の時に、ビクッと上体を起こす場面が、印象的でした。

膝を射られた朝長の痛みが、そのまま長者に投影されたかのよう。
で、そこからの地謡が、ぞくぞくするほどカッコいい。
加速度的に緊迫感が増してくとこが、たまりません!

さて、その語りの間、長者の背後で油断なくニラミをきかせているお方が。

ご自分が語っているかのように、一分のスキもなくヒリヒリした眼差しで一点を見据えておられる。
そのお方、とは、広忠さん。
サーカス団の団長さんて、こんな感じ?
 
広忠さんが大鼓を打つときにエラクしなる右手は、団長さんがふるう、ムチのようなモンだったのねー
 
橋掛りに控えるお方も、かなりのピリピリ感。
長者の語りを聴くことで、朝長の痛みをご自分の中に注入しつつ、
今からなさるアイ語りへ向けて精神集中!な風。

一方、広忠さんは、舞台上の全て、のみならず、見所にいたるまで、くまなく監視し、統制してるかのよう。

一分の曇りもない朝長の舞台を作るんだ、という恐ろしい程の念が感じられ、
私は、おそろしいやら、嬉しいやら、嬉しいやら、はい、嬉しかったです。

中入り後に、萬斎さんのアイ。
ウニっぽい柄のテールグリーンの長裃、青藤色の段熨斗目、ブルーグレーの襟。

長者の語りは、朝長の悲哀に寄り添うようでしたが、
かたや、萬斎さんは、もちょっと突き放したように客観的に語る。
でも、不思議と朝長の無念が彫り出されてくる。

深く、低いお声が、ザクリ ザクリと何ものかを削っていき、事実が彫り出されていく様は、荒涼としていて、いっそ清々しいくらい。
こういう萬斎さん、すきー


蚊相撲
大名が万作さん、太郎冠者が深田さん、蚊の精が裕基くん。
後見が飯田くん、幕が淡朗くん。
 
これから雇う使用人に対して、ちっちゃい見栄を張る大名さまが、
なんとも可愛らしい。
それにちゃんと付き合ってくれる太郎冠者も、微笑ましい。

裕基くんの蚊が、めっぽうスタイリッシュ。
昨年8月に、「止動方角」の馬をなさった時にも感じたことですが、
裕基くんは、人間でないお役をなさる時の在りようが、突出してる。

立ち姿はシュッとして軽やかで、床に重みがかかってないように見える。
そう、ほんとに蚊のように、いっとき床にとまったところ、という風。
 
休憩になると、ご一緒した先輩が番組表の裕基くんのお名前を指しながら、「この方は(萬斎さんの)息子さんですか?」と仰る。
「声がそっくりだったから」とのお言葉。
 
「そうなんです! 最近どんどん似てきてるんですよぉぉ」
と、ついついオーバーレスポンスになってしまう私。
 
 
「白是界」
是界坊が粟谷能夫センセイ。

比叡山の僧が宝生欣哉さん、従僧がが則久英志さん&大日方寛さん。
アイが内藤くん。
囃子方は、杉信太朗さん&観世新九郎さん&國川純さん&小寺真佐人さん。

是界坊ってば、仏法に反発しつつも実は惹かれてるのか?って気がします。
弱気なとこもあり、善と悪の間で心が揺れ動いてる風なんだもの。

妙に人間くさいスピリッツと、荘厳なまでに格好いいビジュアルのギャップが面白かったです。