萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「喜多流自主公演(5月)」を観る

5月22日、喜多能楽堂へ。
4ヶ月半ぶりの来訪です。
初見の演目が2つもあって、
観たーっ、という充足感で満タンになりました!

こちらの会は開演前に解説があるので、張り切って早々と繰り出しました。
解説は佐藤陽さん。

能「頼政
老人&頼政の霊が中村邦生さん。
旅僧が宝生欣哉さん。
宇治の里人が野村太一郎くん。
笛が松田弘之さん、
小鼓が曾和正博さん、
大鼓が國川純さん。

後シテの面は、左右で焦点距離が違っているように見えました。一方の目は近距離に、他方の目は遥か遠くに視点を当てているようで。
そのためか、エキセントリックなお顔立ち。
高い地位を放り出してでも、反乱を企てる宿命を負った人相なのかも。

狂言「伊文字」
西門の女&使いの者が萬斎さん。
主が深田さん、
太郎冠者が高野さん。
後見は内藤くん、
幕は飯田くん。

前シテの謡のお声にときめきました!
何としてでも再会したい、と深田さんが真剣になるのも尤もです。

歌関を作る、という荒唐無稽な発想が楽しい。
その関に足止めされた萬斎さんも、なんだかんだ言いつつ、その関の理不尽ルールに対応するフレキシブルさが魅力的です。

後シテの萬斎さんが登場すると、サッと爽やかな陽が射し込んだかのよう。
マーガレットが配された柳色の肩衣。葉っぱのテールグリーン&緑青の差し色が、きらりと鮮やか。
瓢箪文の腰帯。
白緑色&緑青の格子の縞熨斗目。裏地は古代紫色。
襟は濃紫。
淡い瑠璃色の青海波の狂言袴の括袴の括袴。

さしずめ灯芯ひきの娘であろう、という冗談がすてき。
誰かを蔑めたり、騒々しくしたり、という笑いとは対極ですねー

能「賀茂物狂」
女が佐藤寛泰さん。
都の男が舘田善博さん、
男の従者が梅村昌功さん。
笛が竹市学さん、
小鼓が飯冨孔明さん、
大鼓が佃良太郎さん。

解説なさった佐藤陽さんは
、ものぐるい、とは、"生きている人間が、何か特別な強い思いに取り憑かれている状態"と捉えている、と仰っていました。
すごーく納得!


シテの面は、下唇から顎への脂肪のつき方が艶めかしい。
子供を探す母だとこういう面は使わずに、もうちょい脂肪率低めな面が使われていたような。
この使い分けが興味深いです。
女性の年齢設定としては大差ないはずなのに、と考えると

仕舞「巻絹」 谷大作さん

能「船橋
里男&その霊が塩津圭介さん、
里女の霊が狩野祐一さん。
山伏が村瀬提さん、
同行が村瀬慧さん&矢野昌平さん。
笛が小野寺竜一さん、
小鼓が幸信吾さん、
大鼓が柿原光博さん、
太鼓が梶谷英樹さん。

解説で聴いたお話しによれば、船橋とは、船を何艘も並べて、そこに橋を渡した物だとか。
つまり、水面に浮いた橋である、と。

むむー
それは橋板が在ろうとも、なかなかにスリリングな。

裕基くんは、松葉模様の老竹色の長袴に、鉄鈍色の段熨斗目。
立った姿が絵になります。
袴の前側のタック(?)が描くラインが美しい。
明晰な語から、二人の悲劇が立体的に立ち上がってきました。

裕基くんは揚幕から退出。
退出場所が、切戸口か揚幕かって、どういう基準で切り分けられているんでしょうか。

終演後、能楽堂の外に出ると、ヨイヤ号。
バッグドアが開けてあり、その前に立つ内藤くん。
ラスト演目に出演されていた裕基くんが出てくるのを待ち構えておられたのでしょうか。