萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第97回 野村狂言座 振替公演(14時の回)」を観る

5月6日、宝生能楽堂へ。

最初に高野さんによる解説。
冒頭に仰ることには、高野さんが解説するのは4演目中3演目で、「とちはくれ」だけは、シテによる解説があります、と。

わわわっ
シテって、シテって、萬斎さん?
なんとゆうサプライズ!
黒紋付の萬斎さまを観れる幸せが降ってきたー!

稀曲なので、演じたことの無い人が解説するのは難しかろう、という萬斎さんのお取り計らいとのこと。

素囃子「早舞」
柿原光博さん&
清水和音さん&
澤田晃良さん&
藤田貴寛さん。

狂言「昆布柿」
丹波国の百姓が太一郎くん、
淡路国の百姓が裕基くん、
奏者が万作さん。
後見が内藤くん。

最後に三人揃ってぴょんぴょんする所に、じわっと幸せを感じました。
来年の年貢のときも、このコンビで納めに行くのかしら。
待合せが難しいから、また裕基くんが街道で連れを物色して再会するのかな、と想像してしまう。
そしたら奏者も、おお!いつぞやの!なーんて言って、同窓会みたいになって、またまた揃ってぴょんぴょんするに違いありません。

狂言「成上り」
太郎冠者が淡朗くん、
主が月崎さん、
すっぱが飯田くん。
後見が高野さん。

淡朗くんのシテが板に付いていてビックリ。
初役なのかと思ったけど、何度もやり付けているかのよう。
ちゃっかりしていて、自分の非を認めないくせに、主にさほど怒られるわけでもない、というテキトー君っぷりが素晴らしいです。

狂言「とちはくれ」
住持が萬斎さん、
所の者が中村くん&内藤くん。
後見が裕基くん。
黒門付の裕基くん、かーっこイイ〜
後見座に裕基くんが着くと、鏡板にサッと清らかな膜が張ったかのよう。

萬斎さんが稀曲と仰ったとおり、初見でした。
食欲を取るべきか、金銭欲を取るべきか、と苦悶するお話。

食で誘う中村くんも、金銭で誘う内藤くんも、人間の欲望を擬人化した存在にも感じられました。

ちょっとシェイクスピアっぽい。
実際のところ、食も金銭も、どちらも逃してしまった、と悲しがる場面は、ハムレットの独白シーンか?、という美しさ。

墨染の僧衣に金茶の袈裟、同色の角頭巾のお姿で、悲哀にくれる、と、これは材料が揃い過ぎなほど。

ラジオでは、あと一回くらいやってもいいかな、などと仰っていましたが、面白いお話ではないですか!
中村くんと内藤くんの役も象徴的で、この役を萬斎さんがなさるのも面白そうです。

狂言「二人袴」
聟が岡さん、
舅が深田さん、
太郎冠者が高野さん、
親が石田幸雄さん。
後見が飯田くん。

岡さんが舅どのに初対面の挨拶をしたのち、親を呼びに門前(橋掛かり)へ戻ると、そこへ飯田くんが歩み寄る。

どうやら、長袴が分離しかかってしまったらしく。
つまり、もっと後で裂く予定の箇所が、早くから裂けてしまったようで。
飯田くんが糸を使って、即席で応急処置をなさったご様子。

さーぁ、その後の私は、岡さんの母親の心境。
長袴よ、どうか応急処置で持ち堪えておくれ〜
岡さんが昔から切望されていた聟のお役なんだよぉ、つつがなく完走させてあげて〜、と。
岡さんが二度目に橋掛かりに戻って来たときは、もはや片方の側面は、完全に分離した状態に。
生きた心地がしませんでした。

幸いなことに、岡さんの段熨斗目が紅白で、長袴も紅ベースの色調だったので、そんなに目立ってなかったのが救い。
正当なタイミングで、長袴が晴れて裂かれてから以降は、安心して楽しめました。
ちゃんと笑いも起こっていて、嬉しかったです。

この日は能楽堂の近くでランチをしていたのですが、ふと窓の外を見ると宝生能楽堂の方向から藤田貴寛さんが歩いてこられ、お店のドア前へ。

ドアの外に掲げられたランチメニューをご覧になった後、入店せずに立ち去られました。
開演1時間くらい前でした。囃子方の方々の申合せが済んで一時解散というタイミングだったのでしょうか。