萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「花の会 第21回東京公演」を観る

12月26日、観世能楽堂へ。

半能「胡蝶 蝶戯之舞」 
シテ(胡蝶の精)が坂口貴信さん、
ツレ(蝶の精)が坂井音隆さん&武田文志さん、
ワキ(三吉野の僧)が森常好さん。

笛が一噌隆之さん、
小鼓が飯田清一さん、
大鼓が亀井広忠さん、
太鼓が林雄一郎さん。
広忠さんは水柿色の袴。

シテの装束は、森英恵さんのデザインとのこと。
かさねの色目は綺麗だったけど、私はオーソドックスな長絹の方が好き。

ツレは長絹だったこともあり、舞台上で対比することで、長絹の絶対的な美しさを再認識しました。

長絹の袖の前腕あたりに生じる凹み(布のはぎ跡?)にも、
手元でクシャッとした歪みを描きながら露へ至る袖のラインにも、偏愛の想いが増しました。

狂言「附子」
太郎冠者が萬斎さん、
次郎冠者が裕基くん、
主人が太一郎くん、
後見は深田さん。

毒だと聞かされている附子を食べてみる、と言い出す太郎冠者に、次郎冠者が行かせまじ、と取り縋る。

この後の展開が絶品!
太郎冠者は、次郎冠者が縋っている袖をシュバッと捌き、
「名残の袖ーをー
振り切りーて〜
附子ぅのそばにぞー
寄りにけ〜る〜」
と、いきなりシテ方のごとく重厚な謡に。

対する次郎冠者は、セリフのレスポンスは無いのだけど、太郎冠者の洒落をちゃんとキャッチしている、という事が、なぜか如実に伝わります。

ウケるー、なんぞと言わずとも、可笑しみを共有していることが互いに分かっている、というこの親密感は、何なのでしょう。

この太郎&次郎冠者コンビは、いっつもこんな風にしてフザケあってるんだろうなー、と思わせられ、幸せな気持ちに。

それと!
主人の帰宅を見計らって、太郎&次郎冠者が泣き真似する場面では、お二人のもろシオリの型のシンクロに震えました。
親指の関節の張り出した角度に至るまで、ピタリと同じ。

死ねない苦悶を謡にのせる場面も、素敵。
太郎冠者が
「一口食えども死なれもせず〜」
と謡いだすと、次郎冠者が
続いて謡出だしちゃう。

えっ
打合せなしで、続きの謡のセリフまで分かっちゃうのぉ?
いやいや、昔は連歌なんて遊びもあったくらいだし、こんだけ仲良しコンビだと、それくらい、お手のものか、なーんて考えるのも楽しい。

それなのに、謡の響きは、あくまでも悲哀を帯びて美しい。

今、ここの空間に幸福が満ち満ちているのだなぁ

私は何と恵まれた瞬間を生きているんだろう、と感謝の念が溢れてきました。


子供向けの定番極と侮るなかれ。
極めつきの配役で観ると、こんなにも豊かな番組になるのですねー


能「紅葉狩   鬼揃」
シテ(高貴な女&鬼神)が観世清和さん、
ツレ(侍女&鬼神)が坂井音晴さん&武田友志さん&武田宗典さん&角幸二郎さん&観世三郎太くん。

ワキ(平維茂)が森常好さん、
ワキツレ(維茂の太刀持)が舘田善博さん
ワキツレ(維茂の従者)が梅村昌功さん&小林克都さん。

アイ(供女)が高野さん、 
アイ(武内ノ神)が飯田くん。

囃子方は、先程の胡蝶と同メンバ。
同メンバではありますが、広忠さんは、榛色の袴にチェンジ。

後シテは、ブラック&シルバーの色調で、スタイリッシュアウトサイダーはこうでなくちゃ、と嬉しくなるカッコよさ。

紅葉山の作り物もカッコいい。

螺旋状にねじれたフォルムで、引廻の布もねじれ感を強調するような曲線的な抽象画。

しかも、その引廻の布が一畳台の側面もテロンと覆う様に縫製されていて、凝っているのでした。


短時間ながらも、充実の観能納めとなりました。