萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第33回 久習會」を観る

12月21日、国立能楽堂へ。

狂言名取川
僧が太一郎くん、
名取の某が深田さん。
地謡が、高野さん&中村くん&内藤くん、
後見が岡さん。

名取川、久しく観ていなかった曲です。
こんなにも佳い演目だったんだっけ?と唸りました。

そもそも、川に名前を流されてしまう、という発想が粋。
更に、魚すくいと同じ感覚で川をさらって、流された名前をキャッチしよう、とする。
なんて伸びやかな思考回路なんでしょー

謡が盛りだくさんなのも嬉しい。
謡に織り込まれた川の名前の中に、藍染川のワードが。
おおーっ
単なる川つながりではなく、ずばり、藍染川つながりでセレクトされた演目だったのですね。

能「藍染川」
シテ(都の女&太宰府の天神)が荒木 亮さん、
ワキ(太宰府の神主)が福王和幸さん、
都の女と神主の間にできた子供・梅千代が根岸しんらちゃん。

ワキツレ(都の女が子供づれで泊まる宿屋の亭主・左近尉)が福王知登さん。
この左近尉が、とても良い役で、むしろコッチがワキなのでは?と思ってしまう。

ワキツレ(太刀持)が村瀬慧さん。
笛が栗林祐輔さん、
小鼓が後藤嘉津幸さん、
大鼓が柿原孝則さん、
太鼓が金春惣右衛門さん。

正妻・萬斎さんは、自分の夫へ届いた都の女からの手紙を開封したうえに、偽の返事をしたためる。
その時の所作に見惚れました!

文章の区切りごとに、
筆に見立てた扇をピンと跳ね上げ、その扇の先から憤りを噴出なさる。

跳ね上げるたびに、ナイフがシュバッ、シュバッと天井に刺さっていくかのよう。
そして、ナイフを飛ばせば飛ばすほどに、美貌に凄味が増してゆく。

演劇的になり過ぎることなく、様式美の枠の中で憤る事で、メロドラマになってしまわず、却って心中の業火の激しさが際立つように感じられました。

アイの役の中で、ダントツに冷酷な女性ではないでしょうか。
というか、狂言方のワワシイ女ではなく、「鉄輪」か、はたまた「葵上」のシテのよう。
萬斎さんがこのアイをなさるなら、何度でも観たい!と思わせられるベストマッチのお役でした!!

さて、この演目では、都の女の遺体(のつもりの小袖)を正先に置くのですが、
今回の公演リーフレットによると、置く向きは「葵上」と逆向きなのですって。
藍染川」では遺体なので北枕の意味がある、と。
なるほど〜

後シテの装束が素敵でした。
半切は、まるで唐織のように立体的な織模様で、重そー。そして高そ〜。
こんな豪華な半切、初めて見た。
袷狩衣はピカピカしすぎず、鈍い色味が重厚で美しい。
シテはわりと小柄な方だったので、もしかしたら昔に作られた、由緒ある装束をお召しになられていたのでしょうか。
美術館のショーケースの中で見る装束もよいけど、それが動いてるのを観れるのは、より幸せなことです!