萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第十二回 桂諷會 −源平屋島合戦−」を観る

11月23日、国立能楽堂へ。

屋島」。
「大事」と「奈須余市語」の小書つきです。
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シテは長山桂三先生。
囃子方は、広忠さん&源次郎さん&松田弘之さん。

前場で、漁翁が語り始めようと、腰の後方に挿した扇へ手を延ばした時、後見の銕之丞先生が、すっと動かれ。
ご自身の脇に置かれた扇を手にされ、腰に挿し立ち上がろうとなさる。
んん?
何もアクシデント起こってないのに?

が、漁翁が扇を腰から取り出し終わると、銕之丞先生も、戦闘体勢を解かれ、ご自身の扇を床へ戻されたのでした。
アクシデント起こってなくても、可能性がありそうなら、瞬時に動けるように、戦闘体勢を取られる、ということでしょうか。

中入り後は、屋島ノ浦人(萬斎さん)による「奈須与市語」。
萬斎さんは、藍鉄色にウニちっくな模様がビッシリと配された長裃、ブルーグレー&抹茶色&白の段熨斗目、水色の襟。
結末を知ってるのに、ドキドキして聴きました。

今日は与一が首尾よく扇を射落とせないんじゃないか、とハラハラしてしまって。
扇が射抜かれたあとのスローモーションからの大喝采は、色彩がぶわーっと噴き上がってくるように煌めいて、やったら綺麗でした。

命中して嬉しいのか、浦人サマの何役もがスイッチングする語りがカッコよくて嬉しいのか、とにかく大いなる達成感!

後場義経の弓が波間に落ちて、スーッと流れていってしまうとこから、弓を取り戻す迄の展開が、ぞくぞくする面白さでした。

弓を取り返そうとしても、敵方に阻まれる。すらり、と刀を抜く義経
おぉっ キター!とワクワクが募る私。
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実は去る11/10に、長山能舞台で事前講座を受講してきたのですが、
その時に桂三先生が、ここの場面を詳しく語ってくださいまして。

桂三先生が仰ることには、面をつけて刀を抜いて、それを鞘に納める所作があるのは、「大事」の小書がついた「屋島」の時だけなんだとか。

で、刀を鞘に納めるのって、とても難しいのだそうです

面をつけているので視界が狭いうえに、
嵩張った装束を着て動きが極度に拘束された状態で、
しかも、演じ始めてから長時間が経過して体力も消耗してきてる時なので、
なかなか鞘に納まらない事態になることもある、と。

が、この度はとても滑らかに鞘にスッと納まっておりました!

その講座では、「大事」のときに座る「あいびき」(床几とは仰らず、「あいびき」と仰ってました)のお話も出ました。

「大倉家の“大事”用のあいびき」を使わせていただくことになる、とのお話。

“大事”用なんていう限定グッズがあるんだー
ということで、本日はジーッと「あいびき」を観察しちゃいました。象牙色に丸文のあいびきでした。

小鼓方の「あいびき」を借りるんだけど、角度が違う、とのお話も。
小鼓方は、座面を支える枠の棒が前後にくるように座り、「大事」のシテは、棒が左右に来るように座るのだ、と。

ということで、前場の源次郎さんのお足元を長袴の隙間からジーッと見てしまいました。

そして、「大事」の時は、義経の半切の隙間から。

おおー、確かに!
習ったことが確認できると嬉しくなるのって、なんでなんでしょうね。
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「二人大名」。
万作さんが通りの者、高野さん&中村くんが大名。
万作さんが片脱になった時に、スッと袂を捌く所作がうつくしい。
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中村くんは、脱いだ素襖を感動的なまでにコンパクトに丸めて差し出していました。

小心者さらしい几帳面さを表現してのことだったのか、はたまた、素襖を受け取る万作先生のご負担を少しでも軽減したい、という素の気持ちがツイ出ちゃったのか、どっちでしょうか。

「菊慈童」。
流れる水を目で追った後に水を汲むシーンが、美しかった一

リアル美少年!
ビジュアルが老いない訳は、経文を書き写した菊の葉から滴る水を飲んだお陰、とな。
なんと聴くからに麗しい設定なんでしょ。
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菊の葉って面積が狭そうだけど、一輪あたりの葉っぱの枚数は多そうだし、何枚もの葉っぱに亘って書き連ねたんですね、きっと。
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菊の葉のお水の効果もあるかもしれないけど、幽閉されてから何年経ったかってことを認識してないとこも、老いないポイントでしょうか。
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でも、瑞々しいビジュアルでありつつも、老成したオーラもあり。
こんなお役をなさった後に、普通の中学生ライフに戻れるのものなのぉ?
菊慈童が抜けなくて、困ったりなさらないのでしょうか。
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