萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第50回 相模薪能」を観る

8月15日、寒川神社へ。

今回は、50回記念ということで、最初に、功労者(これまでの、この薪能への功労?)の表彰式が。

橋掛かりに木彫りの椅子10脚が設置され、10人の功労者が。

わわわ 萬斎さんがおられるーー
黒紋付に、オリーブ色の細縞の袴姿。

能楽界からは、他に、中森貫太センセ、國川純さん、小寺真佐人さん(小寺佐七さんの代理)。

司会の方や、宮司さんがお話されているなか、萬斎さんお一人だけ頭をめぐらせて、梁や、舞台の上空に揺れる笹を眺めたり。

他の9人の方々は、厳粛な面持ちで正面を向いてキチッと座っておられるなか、これは目立ちます。

この日は、エラク涼しく、風が常時吹いていて、ほんとーに気持ちのよい気候だったのです。

萬斎さんは、その風の心地よさや、社屋の趣のある造りなどを、心底楽しんでおられるように見えました。

ひとりだけフリーダムでも、無作法に見えないのは、どういうわけなんでしょ。

やっぱ姿勢でしょうか。背筋がピンとしてるんですよねー

風に吹き乱された前髪〜
なんて絵になるんだー


表彰式のあとは、萬斎さん&貫太センセ&宮司さんによる鼎談。

これも、50回記念の特別企画とのこと。
これが無料公演って!! サービスにもほどがあります−

本舞台上に椅子が設置され、下手側に司会者&宮司さんが並び、上手側に萬斎さん&貫太センセが並んで座られました。

なんとなく、司会者&宮司さんがホスト側という雰囲気。

鼎談は、司会の方がお一人お一人に質問をしていく、というスタイル。

最初に、司会の方が、萬斎さん&貫太センセへ向けて、

「本日は宜しくお願いします。(ありがとうございます、だったかも)」と仰り、頭を下げられると・・・

あー 萬斎さんてば、全く、アッチの方を向いちゃっております。

ワキ柱の方向を眺め、やたら気持ちよさそう。

さっきの橋掛りからの眺めもいいけど、本舞台からの眺めもイイ〜
とでもいったご様子。

貫太センセが、丁寧に会釈を返してくださって、よかった−
ナイスカバーですーー

この薪能は、貫太センセのお父様の発案によって始まったのだとか。

そして、貫太センセは、初回から船弁慶の子方で参加され、それ以降、ほぼ毎年参加してこられたそうで。


萬斎さんへの質問の1つは、「親子共演で困ること&良いことは?」というもの。

萬斎さんの回答
「困ることは、息子の演技が気になると、自分のことが疎かになること。」

あ、なんて素直な。でも最近は、裕基くんと共演なさってても、シカメ面なさいませんよねー

続けて萬斎さん
「良いことは、阿吽の呼吸。同じ釜のメシを食おうと思わなくても、食っていた、となると、自然に合ってしまう、ということでしょうか。」

わー コレ嬉しいー ありがとう 萬斎さん。

楽屋(?)におられたであろう、裕基くんのお耳にも届いたでしょうか。


また別の質問で、薪能について問われると、

「風が吹いていたり、蝉の声が聞こえたり、と、自然が感じられることでしょうか。
能楽堂では建物のなかに作られた建築物(もっと違う表現だったかも)の下で、ある種の緊張感を持って演じていますが、薪能では、自然になじむよう、自然との調和を意識して演じています。」

ふふふふふー ほんっと、気持ちいい風でしたよねー

スペシャルご多忙な毎日を送っておられるであろう萬斎さんが、そんな風に喜びをお感じになる、ひと時があってよかった。

実感がこもっていて、しかも、その実感が共有できたような気にさせられて、何重にも嬉しい。


また別の質問

狂言以外のお仕事も、たくさんなさっていて、・・・や・・・や、・・・や、”シン・ゴジラ”の動きもなさっているんですよね。
様々な役を演じる中で、狂言を意識していますか?」

萬斎さんの回答
ゴジラでは、揺るぎない、冒しがたい、存在として、(ここでお隣の貫太センセの方を向き)、鎌倉あたりからノシノシと」

貫太センセ、ニヤリ、と満足げ。


来年のオリパラに関しての話を振られると、

「開閉会式の演出に関することは、何1つお答えできませんが。」
と、まずキッパリ。

おそらく、色々な場面で、イヤというほどカマを掛けられたりしてるんでしょうね。


このあとに話されたことが、とっても素敵だったんだけど、長過ぎて、再現できない。。。

貫太センセが、その間、終始、満足げにウンウン、と肯いておられ、微笑ましかった。


要約すると、「勝ち負けだけではなく、スポーツによって生を謳歌する場であってほしい。スポーツのまえでは、この辺りの者でござるの精神で。

・・・もいれば、・・・もいる、能をやる人もいれば(ここで貫太センセの方を向く)、

狂言をやる人もいる。我々は希少動物のようですねぇ。
でも、みんな等しく、この辺りの者ということには変わりない。」

というようなお話でした。


他にもいくつか質疑があり、かなりのボリュームの鼎談でした。

この鼎談の時も、前髪が 前髪が 前髪がぁぁぁ  いい! 風よ、感謝。


観世喜正さんの「国栖」。

子方(清見天皇)は和歌ちゃん。
オモアイは太一郎くん、アドアイは内藤くん。

今回は、舟はエアーでした。

なので、舟の中に天皇を隠す場面では、和歌ちゃんとおワキは、右側の舞台袖へいったん退出される、という演出でした。

お能の前に、夕立があり、演者の皆様は、本舞台の手前7割はお使いにならず、奥のスペースだけで演じておられたのです。

舟を出すスペースが確保できないから、の演出だったのかも。

通常の能舞台と違う舞台、というだけでも慣れなくて大変でしょうに、更に雨バージョンの場合の演出や立ち位置を考えて、と、たくさんご苦労があるのでしょうね。

前ツレの方は、出口を間違えて、壁に向かって進みかけるのを、後見の奥川センセが、サッと手をとって差し止めておられ。

天女の舞がキレイだった。
風がけっこう激しくなってきて、袖がリアルに、たなびくのでした。


「国栖」のあとは、休憩を挟んで「二人袴」。

休憩時間から、橋掛りの奥にスタンバイする萬斎さんのお姿。

(今回、揚幕も無かったような)

扇でシテ柱の方を指し示しながら、しきりと何ごとかを、傍らのどなたかに説明なさっておられる。

雨は降ったり止んだりだったので、本舞台の、どこらへんま出ていくか、とかの段取りを、説明されていたのでしょうね。


親が萬斎さん、聟が裕基くん、舅が深田さん、太郎冠者が高野さん、後見が中村くん。

裕基くん、またまた背が高くなられたような。
紅白段熨斗目からスネが。
しかしスタイルがいいので、そういうファッションとして成立させてしまう説得力あり。

今回、萬斎さんが長袴を着けられた初回、裕基くんが、後ろ側の紐を結んで差し上げてた。

最初は萬斎さんがご自身で結ぼうとされ、ちょっとだけ手間取られたところを、すかさず裕基くんがサッと手を出して、ごくごく自然に。

「お父ちゃん、疲れてるから、腕が上がりにくいんでしょ、僕がやるから」・・・と思ったかどうかは判りませんが、
萬斎さんも、「ん、じゃ 頼むわ」というテレパシーを出したかの如く、すぐに裕基くんに紐を委ねられ。

今回は、「青ンメ 云々」のシーンや、「やっと まいった」のシーンは、カット。

狂言の時は雨は殆ど止んではいたけど、不安定な天候を考慮してのことかも。

萬斎さんが「シー」って嗜めるトコ、好きなんだけどなー

でも、連舞で謡のお声が聴けたので、大満足です。