萬斎さん観賞と日本画修得の日々

吉祥寺で一棚だけの本屋さん(ブックマンション,145号,いもづる文庫)を始めました。お店番に入る日や棚のテーマ更新は、Instagramでお知らせします。

「第40回 朋之会」を観る

6月12日、観世能楽堂へ。

最初に、武田祟史さんによる”おはなし”。

能「箙(えびら)」

梶原源太景季が武田祥照さん。
旅僧が野口琢弘さん、
従僧が、舘田善博さん&大日方寛さん。
里人が裕基くん。

笛が小野寺竜一さん、
小鼓が清水和音さん、
大鼓が原岡一之さん。

地謡が、小早川泰輝さんを地頭に8人編成。
入口で戴いた解説によると、
小早川泰輝さんは、今回が地頭デビューとのこと。

シテの掛け素襖は、上の方が墨紺色、下は松皮菱の切替で露草色。
クレマチスが染め抜かれ、ツルが伸びやかに曲線を描きます。
クレマチスの花芯に控えめに刷かれた、びゃくろく色やカナリア色が爽やか。

裕基くんのお声が、所々で萬斎さんに酷似してる。
音だけじゃなくて、ぐーっと深海に入っていく感じとか、
海底で暫し、たゆたうようなマとか。

この演目は、景季が22歳の時のエピソードがベースになっているとのこと。
源氏の白旗の代わりに、白梅の枝を箙(矢を入れる筒のことだそうです)に挿して戦った、と。

そういえば、お雛様の下の方の段に、この箙とおぼしきグッズを腰に装着したお人形が居たような記憶が。

若きイケメン(←これは私の想像)・景季くんに梅の枝だなんて、荒んだ戦の場で、さぞや感嘆を巻き起こしたことでしょう。

景季くんの爽やさに、祥輝さんご当人の爽やかさがオーバーラップし、
更に、裕基くんや泰輝さんの勢いが加わって、空気がスーっと澄んでいくようでした。

狂言「呂蓮」
僧が萬斎さん、
宿屋の主人が深田さん、
その妻が中村くん。

萬斎さんは、山葵色の角頭巾、同色の緞子の腰帯、空色の無地熨斗目、墨色の長衣、テールグリーンの数珠。

萬斎さんが座ったり立ったりなさる度に、無地熨斗目の空色の面積がフワッと拡がったり狭まったり。
これがドキリとするくらい優雅。

それと、イロハのテキスト(?)をパラパラする手が!
う・つ・く・し・い~

能「班女」
野上ノ宿の遊女・花子が武田友志さん。
野上ノ宿の長が高野さん。
吉田少将が宝生欣哉さん。
その従者が、御厨誠吾さん&則久英志さん。

笛が藤田貴寛さん、
小鼓が観世新九郎さん、
大鼓が河村眞之介さん。

高野さんはパワハラ気味オーナーで、花子に対して
ノロノロ歩いてのを見てるだけでイラつくのヨッ!と、手厳しい。

陰険であればあるほど、何故か私は嬉しくなっちゃう。

吉田少将と花子が再開を果たして、お互いの扇を見せ合うシーンが控えめで、お能の奥ゆかしさを感じました。

文楽だったら、ここぞとばかり、徹底的にハデッハデにやるのでしょうが。

能「葵上 梓之出 空之祈(くうのいのり)」
六条御息所ノ生霊が武田尚浩さん、
巫女が佐川勝貴さん。

横川小聖が福王和幸さん、
臣下が村瀬慧さん。
その下人が石田淡朗くん。

笛が藤田次郎さん、
小鼓が鵜澤洋太郎さん、
大鼓が佃良勝さん、
太鼓が小寺真佐人さん。

緋長袴がとても素敵。
直線的なラインと、裾の方のモタツキが作り出すカーブの取合せが絶妙です。

以前に読んだ何かの資料では、
緋長袴は高貴な女性の象徴って書いてあったけど、それだけじゃー無い気がする。

何か、とてつもないポテンシャルを持ってる人物が着ける装束なんじゃない?
・・・と勝手に思ってます。
妄執だったり、
狂気だったり。

「蝉丸」の逆髪も、緋長袴を着ける場合がありますね。

右腰の所で片結びにしたアシンメトリーなフォルムも、精神の均衡が乱れてる感があって、とても惹かれます。

私にとっては、約1ヶ月ぶりのお能の公演でした。
お囃子と謡をいっぱい浴びて、オーバーホールしてもらったような気分です。

「コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画」を観る

観たかった展覧会が再開したと聞きつけ、
東京ステーションギャラリーへ行って参りました。

展示スタートは4/24でしたが、始まってすぐ緊急事態宣言のため休館になってしまい、再開を心待ちにしていました。

入ってすぐに、いきなりドーンと鏑木清方

情念がゆらめきのぼるような「薄雪」に、ノックアウトされましたぁ

そもそも福富太郎にとって、鏑木清方は特別な 存在で、コレクターとなったキッカケが鏑木清方だったのですって。

子供の頃、家が火事に遭い、福富太郎パパが収蔵していた鏑木清方の作品が焼失してしまったそうで、
救出できなかった悔恨から、長じて鏑木清方を蒐集するようになった、と。
展示のキャプションのうろ覚えですが。

この「薄雪」は、鏑木清方ご当人もお気に入りだったようで、
後に、
福富太郎によってこの作品に再会した際には、しばらく眺めたいから、と言って、1ヶ月くらい福富太郎から借りていたそうです。

それと、伝説的な作品「妖魚」も。
この作品、はるか昔に観てインパクトが強烈に記憶に残っていたけど、その持ち主が福富太郎だったとは!

今回の展覧会は、チラシが2パターンあり、一方がこの「薄雪」、そして他方が、「道行」(北野恒富)。

なんとゆーカッコいい構図なんでしょ!
この絵のキャプションでは、
福富太郎がコレをゲットした時の、画商との駆引きに言及されていて興味深い。

心中モノが題材だと、買い手が付きにくい、なーんて書いてあって、ほえー、そういうもんなんだぁ、と。

展示された作品群その物を観る楽しみに加え、
コレクター本人の嗜好が克明に顕れているのも、面白かったです。

映画「ブックセラーズ」を観る

面白い映画を観ました。
稀少本を扱う本屋さんや、ディーラー、コレクターたちのドキュメンタリーです。

自店の本が売れると、ムッとしてしまう本屋さんやら、

運命の古本との出逢いを天啓のように語るディーラーやら、

探し求めている本をネットで忽ち発見できちゃうなんて、宝探しの楽しみを奪われた、と嘆く人やら、

愛すべき本キチガイたちが、ワンサカと。

本は、なんてったって紙媒体!という人すべてに観て欲しい。

エンドロールの後に楽しいオマケがあるので、途中で席を立ってしまうと勿体無いですよー

なお、私が伺った映画館は、観客は十人ちょっと。
ソーシャルディスタンスは申し分ありませんが、こんな面白いのにモドカシイ。

「国立能楽堂 五月 狂言企画公演」(14時の部)を観る

5月25日、国立能楽堂へ。

「梟」
山伏が善竹忠亮さん、
兄が茂山忠三郎さん、
弟が善竹大二郎さん。

兄の肩衣は、女郎花色に墨で大きく描かれたカニ
掠れ具合といい、ユーモラス感の抑制加減といい、好みのタイプ。
こんな夏帯が欲しい!

この演目、万作家バージョンにて、以前に観たことがありました(万作家の演目名は「梟山伏」)。

梟の憑依の表現が、今回の方がリアル。
かなりの高周波で手をワナワナする。
流派による違いでしょうか。

ところで、山伏はワナワナ時間が短かったけど、完全には憑依されてなくて、半分は元の人格が残留してるのでしょうか。

うくくくく、憑依されてしまった・・・という無念さが漂っておりました。


「蝉」
シテ(蝉の亡霊)が野村又三郎さん、
ワキ(旅僧)が野口隆行さん、
アイ(所の者)が松田髙義さん。

地謡は、奥津健太郎さんを地頭に5人編成。
笛が竹市学さん、
小鼓が吉阪一郎さん、
大鼓が大倉慶乃助さん。

旅僧のビジュアルが、いかにもワキ方風。
カッサカサの無常観が素敵です。
こんなにも、おワキが似合っていると、本職のワキ方からスカウトされちゃうんじゃなかろうか、というくらい。


新作狂言「鮎」
作:池澤夏樹さん、
演出・補綴:萬斎さん。

小吉が萬斎さん、
才助が石田さん、
大鮎が深田さん、
小鮎が、月崎さん&高野さん&内藤くん&中村くん&飯田くん。
後見が岡さん。

笛が竹市学さん、
小鼓が吉阪一郎さん。

清流に遊ぶ鮎たちの清涼感に、うわーって、嬉しくなる。
初演の時に拝見しているはずなのに、新鮮な驚きを味わいました。

川面が陽射しにキラキラする様子や、
所々で急流になって飛沫があがる様子に、初夏の爽やかさが溢れています。

萬斎さんは、紺の小格子の縞熨斗目、丸文の紺の狂言袴。
何てことないシンプルなコーデが、とてもお似合いになる。

まだ何者でもない、という焦燥感を抱えた若者に、ちゃんと見えるのですよねー

出世街道を駆け上がっていくステップを、小吉や鮎のポージングで、ポポポポ、ポンポーン、とテンポよく見せていくのが、小気味良い限り。

囲炉裏の枠が、風呂桶や番台などに、次々と見立てられて行くのも鮮やかで気持ちいい。

ここから先はネタばれになりますので、ご注意くださいませ。
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実は、出世の展開は夢だった、という事になるですが、まるで「邯鄲」のようです。

が、そこで悟りをひらかない、というトコが、「邯鄲」とは大きく違う。

未来を示唆されても、小吉は町へ出て富を得たい、という希望を覆さない。

帰宅して、初演時に購入したパンフを読み直してみました。
パンフには、原作全文が載っているのですが、原作では、ラストに小吉が悟りをひらいたか否かは書かれていないのですね。

てことは、やっぱり金が欲しーい、というくだりは、萬斎さんオリジナルでしょうか。

それが悪いとか、良いとかって分類するもんでもないのでしょうね。

小吉は、もしかしたら「藪原検校」の杉の市のような最後をとげるのかしら?

しかし、それが不幸せがどうかも、また人それぞれだよな、と思わされます。
これぞ多様性ということでしょうか。

見所に、金子直樹センセのお姿。

「梅流会」を観る

5月16日、梅若能楽学院会館へ。

最初に仕舞4番。
「玉ノ段」高橋栄子さん、
船橋」三吉徹子さん、
西行桜」鈴木矜子さん、
「藤戸」富田雅子さん。

地謡は、梅若紀彰さんを地頭に、梅若長左衛門さん&
松山隆之さん&
山中景晶さん。


狂言入間川」。
大名は萬斎さん、
入間の何某が中村くん、
太郎冠者が飯田くん。

後見が深田さん、
幕が淡朗くん。

萬斎さんは、鬼瓦の素襖裃、
サーモンピンク&淡黄色&
裏柳色の断熨斗目。

素襖裃のお姿、久々に拝見しました。
「ここが渡り瀬じゃ」とか云いながら、ザブザブと川を押し渡っていくお姿、好きです。

長袴の捌きに川の流れの抵抗が感じられ、さらに、袴が濡れて重たくなった感じもあり。

逆さ言葉に大喜びする無邪気さも、可愛い。
長期出張が無事に終わっての帰り道ってこともあり、開放的なモードになってたんでしょうねー

そう思えば、これきしのこと、どうってことないです。
飯田くんも、「大概になされませ」と言いつつも、あんまり本気で制止してないっぽい。

ご主人様のこの程度の羽目外しくらいは、はいはい想定内、想定内、くらいの余裕があるもの。

飯田くんは、今回のようなクレバーな太郎冠者がお似合いになります。


素謡 「八島」。
シテが伶以野陽子さん、
ツレが野崎美さん、
ワキが井上貴美子さん、
ワキツレが井上須美子さん。

地謡は、富田雅子さんを地頭に、上記4人と、
高橋栄子さん&
三吉徹子さん&
鈴木矜子さん。

ワキ&ワキツレのお二人が地謡もされているってことは、この方々もシテ方ということなのでしょうね。

義経がめちゃくちゃカッコいい!
そして地謡もカッコいい~

特に、「今日の修羅の敵は誰ぞ、なに能登の守教経とや、あら物々しや・・・」の辺りからからの盛上りに、ゾクゾクしました!!


能 「東北」
シテが(都の女&和泉式部の霊)が
山村庸子さん。
ワキ(旅の僧)が則久英志さん、
ワキツレ(従僧)が舘田善博さん&梅村昌功さん。
アイが内藤くん。

笛は松田弘之さん、
小鼓は大山容子さん、
大鼓は原岡一之さん。

地謡は、山崎正道さんを地頭に8人編成。

前シテの色入の唐織が、とんでもなく美しい。
今まで観てきた唐織のなかでナンバーワンです。

私は基本的には、色なしの唐織の方が好みなんだけど、宗旨替えしてしまいそう。

変わり横段のように配された黒いライン(牛車の屋根?)が、ピリリと効いていて、たまりません!

柄の細やかさや、朱色の発色の柔らかさに、ただもう、ウットリでした。

シテの方は、たいそう小柄な方だったので、もしかしたら昔の装束をお召しになれたのかしら?

以前に聞いたことがあるのですが、昔の装束の「写し」を作っても、やっぱり元の物の方が素晴らしい、でも元の装束はサイズが小さくて着れないものが多い、と。

八掛にも地模様が施されていて、コダワリが楽しい。
贅を凝らした、とゆーのは、こんな装束に使うワードなのでしょうね。

後シテの摺箔が、これまた素敵で。
ゴールド梅とシルバー梅がびっしり。
そうそう、この演目は、和泉式部が愛でた梅にまつわるお話なのです。

テッテー的に地謡とお囃子を浴びた~、という満足感に満たされた公演でした。

今回の公演では、番組表とは別に、梅若実センセによる解説の用紙もいただきました。
「東北」にまつわる、お祖父様と玄人のお弟子さん(?)とのお話が、随筆のような味わいでした。

「えどがわ能」を観る

5月15日、新小岩駅から、江戸川区総合文化センターへ。
アーケード商店街があって、住むのが楽しそうな街!

私は江戸川区生まれで、隣の駅が最寄り駅だったのに、こちらの駅に降り立ったのは初。

最初に「鼎談・解説」

鼎談メンバは、
梅若実センセ、萬斎さん、
玉川大学の先生(山崎敬子先生、民俗芸能論講師)のお三方。

黒紋付きの萬斎さんを拝見するのは1ヶ月半ぶり。

前回の黒紋付きは、春の陽気をまとったい匂いやかな麗しさ。

今回は、薫風が頬や額の辺りを吹き抜けているかのような爽やかさ。
屋外でもないのに、萬斎さまの髪だけ、そよいでいなかった?

まず冒頭に、進行の山崎敬子先生から萬斎さんに向けて、「能」に関する問い掛け。

なんで「狂言」でもなく、「能楽」でもなく、「能」?

しかし、萬斎さんは、そこはちゃんと対応され、しっかり実センセに話を振ったりされつつ、

「過去にも疫病があったり戦争があったりしながらも、ずっと続いてきたのです」などと。

また、
「みなさん、リモートで観てるんじゃないんだから反応してくださいね?
リモートじゃなくて満席だと演じる我々も全然疲れ方が違うんです!
ね、先生?」

それを受けて
実センセも
「そうです!
でも一生懸命やってるんです」と。

私も、ふむ、これはトークの取っ掛かりの軽いウォーミングアップのようなものであろう、これからこれから、と、落ち着きを取り戻す。

が、そう思った矢先に、
山崎敬子先生が「では、野村さんはこのあとの狂言のご準備があるので、ここで。」
と仰る!

えぇ~?
お三方が着席してから、まだ4分位なのに?

しかもその間、進行の方から振られたお題は、「能」だけなんですけどぉ?

萬斎さんも、いっしゅん虚をつかれたように見えました。が、
「ほんとうに、アッという間でしたが・・・」などといったことを言い残されて退出されました。

そして、その3分後に実センセも、ご準備のため、とのことで退出されてしまったのでした。

これを鼎談と謳ってよいのぉ?

そして、狂言が始まったのは、萬斎さんご退出から15分後。
萬斎さんなら、お着替えはそんなに時間がかからないんじゃない?
と、ちょびっと無念なり。

でも、貴重な萬斎さん黒紋付きが拝めたので、「鼎談」企画には心底感謝しております。


「二人袴」
親が萬斎さん、
聟が太一郎くん、
舅が深田さん、
太郎冠者が高野さん、
後見が月崎さん。

萬斎さんは、裏柳色の段熨斗目、古代紫色の八掛。濃紺地にグリーン系の植物の丸紋の腰帯。

聟と共用する長袴は、紫色地に山葵色の源氏車やお花の模様。

酒宴のシーンで聟が失言する度に、うぬっ、と慌てる萬斎さんがかわゆい。

そして、連舞の萬斎さんが美しい!
扇を返す手も、艶やかなお声も。
萬斎さんの謡を聴いたの、なんだ
久しぶり。
はあーっ
癒されるぅ

ホール内のアチコチちら笑い聟が声が聴こえたり、どよめきが感じられたり、と、まさにこれぞ、ライブ!
という楽しさでした。

「二人袴」の終演は13:55。
このあと観世能楽堂へ向かわれたことと思いますが、間に合われたでしょうか?

観世能楽堂の公演は14:30開演で、萬斎さんの出番は、
番組表によれば、
仕舞2番の後の「成上り」の太郎冠者。
熨斗目も着替えなきゃいけないので、なかなかの綱渡りだったのではないでしょうか。


さて、「えどがわ能」の続きです。

仕舞3番のあとに、
「景清 松門之会釈(しょうもんのあしらい)」

景清が梅若実センセ、
人丸が松山隆之さん、
人丸ノ供人が安藤貴康さん、
里人が工藤和哉さん。

笛が一噌幸弘さん、
小鼓が観世新九郎さん、
大鼓が安福光雄さん。

地謡は、角当直隆さんを地頭に、
六人編成。

里人がアイではなく、ワキなのは、何故なんでしょうねー?

実センセが体調的にお辛そうで、鬘桶に座っているときでさえ、グラリと身体が倒れかかったりなさる。

が、それが、景清の心象表現にオーバーラップして感じられ、息をのむように見詰めてしまいました。

会場のロビーは、広々と開放感があって、とてもよいホールでした。
ぜひ来年以降も以降も継続いただきたいです。
「鼎談」も慣例化されますように。

"よこはま「万作・萬斎の会」"を観る

5/8、横浜能楽堂へ。
このところ能楽堂を渇望していました。
この公演が延期 になってたら、暴動を起こすところでした。

最初に高野さんによる解説。
親子3代っていうのは、100年ですよ、100年続くというのは、凄いことなんですよ、と。

はい、ほんとに。
しかも3代みなさまが、揃いも揃って端正で魅力的っていうのも、凄いことですよねー


裕基くんの小舞「貝づくし」 。
地謡は高野さんを地頭に、
中村くん&内藤くん&飯田くん。

もーぉ
切戸口から半身が現れた瞬間から場が清らかに。
ヴィジュアルがカッコいいってだけじゃーないんです。

打ち水をしたかのよう、とでもいいましょうか、
床も空間も、つややかに煌めき出します。


「柑子」
太朗冠者が万作さん、
主が萬斎さん、
後見が淡朗くん。

主サマは、常磐色の地に細かい銀杏柄の長裃、
藍鼠色&山葵色&女郎花色の段熨斗目。

俊寛の物語に主サマが落涙するところが、最高に楽しい。
そして、しおる所作が美しい~

その号泣からの、
いやいや、あれは俊寛の話、いまは訊いてるのはミカンのコト!
とか言うくだりは、
ノリツッコミのようでした。


万作さんによる"狂言芸話(21)"。
アシスタントは飯田くん。

お父様(6世万蔵さん)が打った面のお話が面白い。
お父様がご生前の当時は、だいたいウン十万円で買い手がついた、だとか、

最近になって、お父様が打った面が骨董屋が売られている、と知らせを受けて、青山(地名はうろ覚えです)で数万円で手に入れた、だとか。

具体的な金額も興味深いし、あの界隈に、そんな風にポコッと売られてたりするんだー、という驚き。

お父様は、面を打つ以外に、根付や帯留もよく手掛けておられたそうで。

「石橋」の面(獅子口?)の根付の現物も見せてくださいました。

帯留めのモチーフとしては、中啓とかが多かったのですって。

あと、お父様が師事していた面打ちは下村清時という方だった、と。
さっそく帰宅して検索してみたら、なんと下村観山のお兄さんでした。

奥村土牛との交流のお話も。
歴史上の人物と思っていた人のことを、いま目の前にいるお方が、知り合いとして語られる不思議さよ。

40分ちかくもお話くださいました。


悪太郎
悪太郎が萬斎さん、
伯父が石田さん、
僧が深田さん、
後見が裕基くん。
幕は内藤くん(中盤)&淡朗くん(最後)。

萬斎さんは、
枇杷色に金糸の燕尾頭巾、同色ベースの段替の厚板、
白地にはしばみ色の格子の縞熨斗目、
紺地に白い風車紋の腰帯、
丸文いりの紺の狂言袴の括り袴。

伯父さんに脅しをかけて、
「このナギナタにのせてくりょ~っ」と、ナギナタを繰り出すと、ナギナタがうねうねうね~と気持ちいいくらい波打ちます。

後場、念仏に返事をする萬斎さんがカワイイ。
「やぁ? 」やら、「やーっ」やら、バリエーション豊かなレスポンスでした。

念仏にのって浮くところ、
萬斎さんと深田さんの息がぴったり。

以前に観た「鏡冠者」も、このお二人の組合せでした。
そういえば「まちがいの狂言」も。

それでフト思ったのですが、似たような背丈の二人が居ないと、「鏡冠者」も、「まちがいの狂言」も出来ないのですね。

そう考えると、これらの演目のシテを裕基くんがなさるなら、どなたが相方になるのかしら。
今度、裕基くんが立衆をなさるチャンスがあったら、比較検討しておかなくては。